nerf調整とAggroデッキ
Patch6.1.3のカードバランス変更にはクラシックカードセットの中立/Neutralミニオンの中でも使用頻度の高かった、《鬼軍曹 / Abusive Sergeant》の弱体化調整(nerf)が含まれていました。バランス変更の理由説明で記されているとおり、Aggroデッキの1マナスロットで定番のミニオンとして長らく採用されてきたミニオンです。
中立/Neutralミニオンの汎用性が高すぎることはデッキ構築の多様性を阻害し好ましくない、この開発チームの思想はAggroデッキで採用されるミニオンにおいて顕著に現れています。今年4月のスタンダードフォーマット導入時には、同じく中立/Neutralミニオンの《レプラノーム / Leper Gnome》と《ナイフ・ジャグラー / Knife Juggler》、《魔力のゴーレム / Arcane Golem》が弱体化の修正対象となりました。
旧カードセットのAggroパッケージ(Mech/Deathrattle)がスタンダード落ちしたこと、そして優秀だからこそ採用されていたミニオン達のnerfが重なったために、現環境ではAggroデッキの存在感がやや薄れています。脇の甘いデッキを殺す役割を担うAggroデッキが減少しすぎることは、メタゲームのバランスにおいて健全な状態ではありません。
そしてワン・ナイト・イン・カラザンの新環境を迎えてから2ヶ月が経過し、開発チームの示した方向性はプレイヤー達の構築するデッキに反映されてきました。少ないながらも現在プレイされているAggroデッキの構成は、それぞれのクラスが持つ特徴を色濃く反映したものとなりつつあります。今回のデッキスポットライトでは、Patch6.1.3アップデート後に使用されているAggroデッキに着目していきたいと思います。
Secret Aggro Hunter
先日行われたEU地域のLast Call Invitational(最終選抜)に出場したBunnyhopporとSintololは、全く同じ構成のHunterデッキを持ち込みました。カラザンの新カード《覆面の女ハンター / Cloaked Huntress》をコアとするSecret Hunterのデッキですが、昨シーズンまでプレイされてきたMidrangeの構成ではありません。
Patch6.1.3ではHunterのスペルカード《荒野の呼び声 / Call of the Wild》がマナコスト増加の調整を受けました。この影響は一般的なMidrange Hunterに留まらず、同じくこのカードを2枚採用していたSecret Hunterにとっても痛手となったのです。
Hunterをこよなく愛するNickchipperは《ソーリサン皇帝 / Emperor Thaurissan》を採用しバランス調整への対応を図りました。一方で、《荒野の呼び声 / Call of the Wild》を諦めこれまでのMidrange構成とは異なる方向性を模索したプレイヤー達が居ます。
ドイツのプロプレイヤーC4mlannがチームメイトのXzirezと共に構築したAggro構成のSecret Hunterは熱い注目を浴び、先述のEU最終選抜のプレイヤー達が使用したデッキもそっくり同じデッキ内容だったのです。
[S31 Legend#2EU #3Asia] SMOrc Hunter [Hearthpwn]
Aggro Shaman
旧神のささやき拡張版以降のメタゲームで支配的であったShamanクラスは、今回実施されたPatch6.1.3のバランス調整で狙い撃ちされました。3年以上使われ続けた基本カードの《岩穿ちの武器 / Rockbiter Weapon》に加え、3マナ以上の働きを期待できたRNG要素の《タスカーのトーテム師 / Tuskarr Totemic》がnerf調整の対象となったのです。
アップデート後もMidrange Shamanの勢いは衰えることなく、このバランス調整だけではShamanクラスのパワーレベルを引き下げるには不十分だったことは明らかでしょう。ともあれ、このバランス変更はAggro Shamanのデッキにも確実に影響をもたらしています。
まず、上ブレ要素が除かれた《タスカーのトーテム師 / Tuskarr Totemic》はもはやAggro Shamanにおいても不要な存在となりました。アグレッシブな構築を考える上で3マナスロットには他にも魅力的なカードが数多く存在するからです。そして同時に、トーテム/Totemシナジーが手薄になったことで《地底よりのもの / Thing from Below》の採用例も減少しています。《コイン / The Coin》があれば4ターン目にも召喚できたこのミニオンも、《タスカーのトーテム師 / Tuskarr Totemic》無しではAggro Shamanにとってやや魅力に欠けるようです。
もう一つのnerf対象カード、《岩穿ちの武器 / Rockbiter Weapon》は今のところ引き続き採用されています。Midrange Shamanでは《風の王アラキア / Al'Akir the Windlord》とのコンビネーションが難しくなったためデッキから抜かれましたが、《ドゥームハンマー / Doomhammer》とのコンボはやはり強力であり、マナコストの制限も武器の特性を活かせばクリアできるAggro Shamanとってはいまだ使用価値が認められているようです。
裏を返せば、今でも《岩穿ちの武器 / Rockbiter Weapon》を使用するShamanのデッキの構成はAggroだと対戦中に判別するための材料とも言えるでしょう。
Post nerf Aggro shaman [Hearthpwn]
Ant's Old School Aggro Shaman [Hearthpwn]
ImGodConcede's Aggro Shaman [Twitter]
myr's Aggro Shaman [Twitter]
Divine Aggro Paladin
《鬼軍曹 / Abusive Sergeant》の弱体調整が手痛く響くのは相性の良いアビリティの聖なる盾/Divine Shieldを特色とするPaladinクラスのAggroデッキです。
EU地域の選手権予選に毎回Aggro Paladinを持ち込むほどこの構築スタイルを愛好するJambreの見解では、いまだこのミニオンは有効であるもののnerf以前の問題として、ヘルス1のミニオンに適切にアプローチする《精霊の爪 / Spirit Claws》と《メイルシュトロームのポータル / Maelstrom Portal》を追加されたShamanの存在がネックとなっているようです。
ラダーにShamanが氾濫している現状への対応策としては専用スペルの《力の祝福 / Blessing of Might》、新カードの《魔力異常体 / Arcane Anomaly》、または2マナコストの《槍持ち / Lance Carrier》など様々に試されていますが、今後のカード追加で他にも選択肢が増えることを必要としているかもしれません。
EBOLADIN IS BACK [Twitter]
Tars' Aggro Paladin [TOP DECKS]
Ladder Divine Paladin [Hearthpwn]
Jambre Aggro Secret Paladin [Twitch]
Aggro Freeze Mage
Midrange Shamanと良好な相性を持つAggroデッキとして、Patch6.1.3実装前にredditに投稿されたAggro Freeze Mageが大いに話題を呼んでいました。このデッキはスタンダードフォーマット導入前にプレイされていた相手ヒーローへのダメージに注力するAggro Freeze Mageと、現在のTempo Mageのふたつをミックスさせたハイブリッドの構成となっています。
こうしたデッキの再構築はやはり、《レプラノーム / Leper Gnome》や《魔力のゴーレム / Arcane Golem》のようなダメージ源が弱体化されたことに加え、カラザンで追加された《メディヴの従者 / Medivh's Valet》の存在が影響を与えたものでしょう。ベン・ブロード氏のしてやったり顔が目に浮かぶようではありますが、Aggro Secret Hunterと同様にMageクラスの特性を反映した構築がプレイされていることは開発チームの思惑通りとなっています。
このデッキはControl Warriorに対してかなり苦しい相性のマッチアップとなっており、ランク帯によっては推奨されるものではないかもしれません。その代わり苦手な相手を避けられれば、昨シーズンにTrumpが16勝4敗でレジェンドまで駆け上がったような素晴らしいポテンシャルを持ち合わせています。
Rank 5 to Legend+ with Medivh's Valet aggro freeze mage, destroyer of Midrange Shaman, in depth guide inside [reddit]
Disco Lock
Discard Zoolock、またの名をダンスパーティーの会場となるディスコと掛け合わせてDisco Lockと呼ばれるデッキは、カラザンリリースの終盤以降から一般的な構築スタイルとして定着しています。
このデッキを用いてラダーで複数回レジェンドランク1位を達成しているSjowのリストからは、nerf調整後に《鬼軍曹 / Abusive Sergeant》が省かれるようになりました。代替として加えられた《イカレた錬金術師 / Crazed Alchemist》は以前の《終末予言者 / Doomsayer》が大流行した時のように効果的に機能しています。
一方で、従来のZoo Warlockの構築も人気を失ったわけではありません。Burst Zooと名付けられたこのデッキではカラザンの新カードの代わりに、武器使用クラスの多い現在に対応して《酸性沼ウーズ / Acidic Swamp Ooze》と3マナスロットの突撃/Chargeが加えられており、Discard Zooとは異なるアプローチでメタゲームへの対応を図っています。
Sjow's Discolock [Twitter]
WingsOfWax's Burst Zoo - Rank 5 Easy - 73% Winrate [Hearthpwn]