台風が残暑も吹き飛ばしこのまま駆け足で秋へと走りだしそうな気候ですが皆さんいかがお過ごしでしょうか。
海外プレイヤーAntが一昨日の配信中にAggro Shamanのデッキを用いて、NAサーバーのレジェンド1位を獲得していました。そのデッキリストは驚くことに、《精霊の爪 / Spirit Claws》などカラザンの新カードをいっさい採用していない(いわゆる)旧式のAggro Shamanのものでした。
このことに刺激を受けまして、本日の記事は表題のとおり旧Aggro Shamanのデッキと、ワン・ナイト・イン・カラザンの新Aggro Shamanを比較しつつ現在のトレンドを再考するのが目的です。
新アドベンチャーモード、ワン・ナイト・イン・カラザンで追加されたクラス専用の新カードはAggro Shamanのデッキに変革をもたらしました。Aggro Shamanを名乗りながら4/7/7が入っていないような旧環境では考えられなかった様々なバリエーションが盛んにプレイされています。
もちろんハースストーンのデッキは新しいものが良いものだとは一概に言えません。デッキに入るカードは30枚が限度であり、カードを入れ替えて何か新しい物を得たならば、かつて持っていた別の何かを失います。
あらためて言うほどのことでは無いかもしれませんが、つまるところどんなデッキ構成がいま現在のメタゲームに最適な構成であるか、その見極めが重要となるわけですね。
それではさっそく現在流行のデッキリストに採用されている新カードのおさらいと、その影響によって変化したデッキバリエーションを古いデッキリストと比較していきましょう。
Aggro Shamanの新機軸
ご承知のようにAggro Shamanへ新たな戦略をもたらしたのはクラス専用の新カード2枚です。
まず《メイルシュトロームのポータル / Maelstrom Portal》は低コストでオーバーロード/Overloadのデメリットも無く、敵ミニオン全体に1ダメージを与えるというShamanが待ち焦がれたAoEスペルです。このカードはカラザンアドベンチャーの第一週で開放され、同時期の南北アメリカ地域夏季予選からすでに実戦へ投入されていました。
利便性を増すために呪文ダメージ/Spell Damage+のミニオンを増やすような工夫は無く、ただ単純にこの1枚単品で使い所があるカードとして評価されていたようです。
そして問題の《精霊の爪 / Spirit Claws》。1/1/3のスタッツに特殊なアビリティが設定されており、呪文ダメージ/Spell Damage増加ミニオンが盤面に味方としている場合は攻撃力が3へと一時的に上昇します。1マナで最大9ダメージという恐ろしいダメージ効率の武器であり、そのアビリティを起動する条件の特殊性によってAggle Shamanのデッキに新たな戦略オプションを加える事になりました。
さて、Shamanはヒーローパワーによって呪文ダメージ/Spell Damageミニオンを生成することは可能ですが、RNGに依存するため確実性に欠けます。このため《精霊の爪 / Spirit Claws》を最大限に活用するならば呪文ダメージ/Spell Damageアビリティを持つミニオンをデッキに採用する必要があります。
そのためには当然ほかのカードと入れ替えることとなり、極端な例を挙げるとXixoのデッキでは4/7/7が削られ《アジュア・ドレイク / Azure Drake》が加えられていました。
《トーテム・ゴーレム / Totem Golem》・《地底よりのもの / Thing from Below》、そして4/7/7のようにマナコストに比してオーバースタッツなミニオンの圧力を武器とする旧神環境のAggro Shamanから、様々なバリエーションが現在試されているのはこの理由によります。
ただし《精霊の爪 / Spirit Claws》は呪文ダメージ/Spell Damageミニオンと併用せずとも優秀です。ミニオンを浪費しないPingダメージは序盤の盤面争いにおいて大きな助けとなり、盤面の優位をとってからスノーボールを目指すAggro Shamanの構築スタイルに単体でも有用なツールとして評価されています。
ざっくり分類すれば現在のトレンドはこの《精霊の爪 / Spirit Claws》をどれほど活かすかが焦点になっているように見受けられます。それでは旧式デッキも含めてデッキリストを比較していきましょう。
デッキバリエーション
旧神環境のデッキは便宜的にSMOrcリストと呼ばれることがあります。この『SMOrc』とはミニオン同士のトレードをせずに相手のフェイスだけを殴るというプレイスタイルを様式美としたHearthstone memeですが、実際のところ相手のヘルスを人質にしてミニオントレードを自分ではなく相手に強要するというのはAggroデッキの重要な戦略です。
そして新カードの《メイルシュトロームのポータル / Maelstrom Portal》・《精霊の爪 / Spirit Claws》どちらもがトレードを優位に運ぶカードであり、SMOrcのごとくミニオンでプレッシャーを畳み掛ける旧来の戦法から変化していることに着目しましょう。下図のようにカード選択の特徴を捉え分類するとそれぞれの傾向が浮かび上がってくるはずです。
それにしてもふだん英語版でプレイしてるから気にならないのですが、日本語の新しいフォントはたいへん読みづらいですね。ハースストーン日本公式は本気でユーザビリティ考えてこのフォントへ変更したのか機会があったら伺ってみたいもんです。
① just SMOrc
先述した海外プレイヤーAntが使用しレジェンドランク1位に到達したリスト。旧神環境の中盤以降で定番とされた構築スタイルほぼそのままの構成となっています。
Hitting people in the face to Rank 1 [Twitch]
② one copy of Spirit Claws
《ドゥームハンマー / Doomhammer》の枚数を削るなど様々に試していたFenoもこの形に結論を見たそうです。《精霊の爪 / Spirit Claws》を採用するリストでは能動的にアビリティを活かすため《ブラッドメイジ・サルノス / Bloodmage Thalnos》がほぼ必ず組み込まれており、違いを生むのはさらに呪文ダメージ/Spell Damageを積み込むかどうかとなります。
《アジュア・ドレイク / Azure Drake》まで入れずに《ドゥームハンマー / Doomhammer》2枚積みのデッキにおいては、《精霊の爪 / Spirit Claws》の枚数も1枚に抑える構築が基本となっているようです。
Feno's Aggro Shaman [Twitter]
③ Claws + Spell Damage
《ドゥームハンマー / Doomhammer》が1枚で4/7/7も落とすのはかなり極端に見えます。しかしXixoを始めとするプロプレイヤー達の影響が大きいものか、Tempostormのデッキサンプルにも掲載され現在流行している構築例です。少し変わったところでは、Zalaeが《鬼軍曹 / Abusive Sergeant》を《原始融合 / Primal Fusion》へと差し替えていました。
《アジュア・ドレイク / Azure Drake》のカードドローと《呪術 / Hex》による脅威の排除など対応力を増していますが、Aggro Shaman本来の圧力はずいぶんと目減りしています。
Xixo's Aggro Shaman [Twitter]
マッチアップへの影響
デッキバリエーションの傾向を抑えたところで本題に入ります。本題とはいってもAggro Shamanの最適解はプロプレイヤー達の間ですら固まってはいないので、この記事ではどこに着眼点を据えるべきか洗い出す程度にとどまります。
さてそれぞれのデッキを見比べて見て、単純にデッキパワーは新カードを加えたことで低下しています。武器も呪文も使ったらそこで終わりですが、ミニオンは盤面に存在する限り延々と相手ヒーローのヘルスを削り続けるからです。4/7/7を落として《アジュア・ドレイク / Azure Drake》を加えるなどは明らかにミニオンの圧力を低下させる選択です。
マリガンの段階でも《精霊の爪 / Spirit Claws》を残すことが推奨されており、これはShamanが1ターン目からミニオンドロップさせる確率を減少させます。1ターン目に《精霊の爪 / Spirit Claws》をプレイしその後のトレードに備えることは、AggroデッキではなくDragon Warriorの考え方に近いものです。
一方で良い面はさまざまに考えられます。Tempo Mageのリストに《おしゃべりな本 / Babbling Book》2枚が定番化しており、《アージェントの従騎士 / Argent Squire》を使用するデッキはShaman以外にも存在し、《やさしいおばあちゃん / Kindly Grandmother》へ有利なトレードを仕掛けるには武器によるPingダメージが極めて有効です。
このように現在の流行に適切なデッキ構成であること、海外プレイヤー達はadaptなどとよく言いますが、現在の環境でゲーム序盤の競り合いを助ける重要なツールとして《精霊の爪 / Spirit Claws》と《メイルシュトロームのポータル / Maelstrom Portal》は定番のカードとなりました。Antの古いデッキ構成が成功をおさめたとはいえ、これら新カードが必要無いものであるとは簡単に判断できるものではありません。
つまるところ《精霊の爪 / Spirit Claws》にどれほどの比重を置いてミニオン選択を行うかが、いま現在Aggro Shamanのデッキ構築で焦点となっているように見受けられます。1枚差しでゲーム序盤のPingダメージ程度に考えるか、それとも《アジュア・ドレイク / Azure Drake》を加えることでアビリティ発動の機会とカードドローを獲得するか。その代わり4/7/7を失うことは大きすぎる代償ではないか?
新しいツールを取り入れながらもAggro Shamanのアイデンティティを失わないためにはどんな構成が最適なのか。Thijsの構築にはその模索の痕跡が見えてきます。