環境を牽引するMidrange Shaman
vS Data Reaper Report #21 [Vicious Syndicate]
Patch6.1.3のカードバランス調整が起こしたインパクトはメタゲームにふたたび波紋を起こし、ワン・ナイト・イン・カラザンのカードセット追加による環境の変化に複雑なうねりを加えています。この混乱から突出したのは弱体化調整(nerf)で狙い撃ちにされたはずのShamanクラスだったことは周知の通り。そしてもちろんそのデッキはMidrange Shamanです。カラザンリリース前後から競り合っていたAggro ShamanとMidrange Shamanのプレイ比率はいまや完全に逆転し、今回のアップデートを経て決定的なものとなりました。
これは普段わたし達がラダーを回している時の体感だけではなく、コミュニティの熱心なプレイヤー達によって収集された戦績のデータにも表れています。
デッキ管理ツールを使用するプレイヤー達の協力により戦績データの統計を作成しているMeta Statsによると、記録された1万6千ゲームの中でMidrange Shamanの使用率は10.85%へと達していたとのことです。同じくvs Data Reper Reportの統計では全体で17.7%、さらにMidrange ShamanのマッチアップはAggro Freeze MageといくつかのControlデッキを除けば、あらゆるデッキに対して高い勝率を記録しています。
Meta Snapshot Week #40 (Oct 3 - Oct 9) [Meta Stats]
統計のサンプルサイズはハースストーンのプレイ人口と比較してごく僅かです。それでも管理ツールを導入した上で、このようなコミュニティプロジェクトに協力するほどマニアックなプレイヤー達は常に研究を怠らずメタゲームの変化に敏感であり、その彼らによるラダープレイの集計結果は一定の説得力を持ちます。
そしてこれだけの数字で結果を出している以上、Midrange ShamanがBlizzCon開催前のメタゲームを牽引する旗手となることは間違いないでしょう。そのパワーレベルはNaxxのUndertaker Hunterやnerf前のPatron Warriorに匹敵するほどではないかと話題にのぼることがあります。あなたはどう思いますか?
Midrange Shamanへのカウンター候補
Matchup Win rates based on games between 8/31-10/4, 2016 [Vicious Syndicate]
ヒーローの名前をクリックでヒーロー全体、デッキ名クリックで特定デッキのマッチアップをハイライト表示してくれます。右クリックで除外も可
メタゲームはMidrange Shamanを中心に巡り始めています。このデッキと五分に渡り合うTempo Mage、やや有利な相性にあるControl Warrior、確実に優位を図れるFreeze Mageなど、Midrange Shamanとの相性が他のデッキの人気にも影響を与え、カラザンの新カードセット追加による構築傾向の変化と錯綜しています。
スキが無いように見えるMidrange Shamanに対して上記のデッキ達が支持を集めている理由をおさらいしましょう。まずTempo Mageは元々このデッキに対して大きな有利不利は無く、Shamanはカラザン新カードにより強化されたものの、nerf調整によって《岩穿ちの武器 / Rockbiter Weapon》をデッキから落としています。この二つのデッキがボードを争う時に大きな役割を果たしていたオーバーロード/Overloadの発生しない1マナ3点除去が無くなったことで、いまだ相性差に極端な変化は見られません。
Control Warriorはひと月ほど前にはMidrange Shamanに対するカウンターの代表格として捉えられていました。いま現在はそれほど明確な差はないという評価に落ち着いていますが、このデッキに習熟しておりラダーで使用するなら最も妥当な選択だという意見も多く見られます。そして、《愚者殺し / Fool's Bane》や《ハリソン・ジョーンズ / Harrison Jones》、《バロン・ゲドン / Baron Geddon》などの採用というShaman対策を施すデッキが人気を高めており、Warrior自身もShamanの影響を受けつつあるようです。
最後に、ただ一つ明確にMidrange Shamanと有利な相性を持つと言われるのがFreeze Mageです。Midrange Shamanのゆるやかな展開はFreeze Mageに十分過ぎるほどの時間を与え、さらにShaman側の除去能力はFreeze Mageの脅威を排除するのに空回りし有効ではありません。有利なミニオントレードを得意とするMidrange Shamanにとって最も噛み合わない相手なのです。
さてここで難しくなってくるのが、ラダー最大勢力のMidrange Shamanに対してはっきり有利でありながら、Freeze Mageはラダープレイに第一で推奨されるカウンター候補ではないことです。言うまでも無くControl Warriorと絶望的な相性にあるからです。さらにHunter達の存在も厄介であり、トーナメントでの人気と比較してラダーでの使用率は伸び悩んでいます。
プレイヤー達のデッキ選択は非常に多くの要素が絡み合い、デッキ同士の力関係だけでは予想は難しいものです。流行り廃りには著名プレイヤーやトーナメントの影響が大きく、さらにプレイヤー個々人の事情もデッキ選択に反映されます。ラダーの頂点に立ちたい人は最適解を追い求めるでしょう。Contorolデッキを苦手とする人々にとってControl WarriorやFreeze Mageはハナから選択肢に入らないかもしれません。注目されるプロプレイヤーに答えを求めても、彼らの使用するデッキはただ単にトーナメントを見越した練習用であるかもしれません。
もういちど大金持ちになれるぞ!
すこし時計の針を戻して、ワン・ナイト・イン・カラザンが実装された当時を振り返ってみましょう。この時期はWarriorブームが最盛期を迎えていました。EU地域夏季予選に参加したプレイヤー162名の96%がWarriorクラスのデッキを持ち込み、ラダーを回せば4回に1回はガロッシュに当たる、そもそも自分がガロッシュで相手もガロッシュで、まさに不毛な戦いが繰り広げられるという異常な状況でした。この頃はDragon Tempo Warriorに圧倒されたAggro Shamanの減少によって、Shamanクラス全体のラダープレイ人口は底が見えないほど下降線を辿っていたのです。
そこからShamanの人口がV字回復を遂げる中で、AggroとMidrangeの比率は逆転し現在に至ります。この変化は先述のように、Shamanを取り巻く他クラスとの力関係にも影響を及ぼしています。カラザン実装時期に死滅していたReno Warlock(Renolock)が再び姿を現し始めたのは、メタゲームが動いていることのわかりやすい兆候でしょう。
C'ThunやN'Zoth、またはコンボ型など様々なスタイルでスタンダードフォーマット導入後に成功を納めたRenolock。カラザン実装前にAggro Shamanに絶滅へと追いやられ、そしてMidrange Shamanの隆盛とともに復活を遂げました。
参考デッキ:
Popular "Reno Warlock" Decks [Meta Stats]
VLPS' DragoN'Zoth Renolock [Twitter]
Thijs' Combbo Renolock [Twitch]
Renolockが帰ってきたことはしかし、メタゲームにおいて有利なデッキだからという理由なのでしょうか。ShamanはMidrangeに変化しても強敵であり、Hunterの人気は根強く、ここ最近はFace HunterやPirate Warriorなど最もアグレッシブなデッキまで環境に戻ってきている現状においては疑問が浮かびます。
このデッキが帰ってこれた理由はAggro Shamanの減少だけが理由ではないのでしょう。Midrange Shamanの影響によって環境全体が遅いゲーム展開を志向するようになり、そこにRenolockを再びプレイする余裕が生まれたと見るのが実情に沿っていると思われます。