本日未明にハースストーン公式より闘技場(Arena mode)のインフォグラフィックが公開されました。トッププレイヤー達の勝率やカードピックの選択など興味深いデータが公開されており、視覚的な判りやすさも相まって大きな反響をよんでいます。
久方ぶりのArena関連記事として今回は、インフォグラフィックが公開された背景をおさらいしつつ闘技場モードの将来について少し考えを進めていきたいと思います。
※インフォグラフィック ・・・ 情報、データ、知識を視覚的に表現したもの
公式サイト
インサイド・ザ・闘技場 [Battle.net]
Inside the Arena [Battle.net]
画像リンク - 南北アメリカサーバー
画像リンク - ヨーロッパサーバー
画像リンク - アジアサーバー
画像リンク - 中国サーバー
補足事項
◆ 補足1、集計ルール
トップ3のプレイヤーは8ヶ月間で闘技場プレイ回数が100回以上のプレイヤーから平均の勝率に基づき選出されています。もっと高い勝率のプレイヤーが存在したものの、そのほとんどは闘技場プレイ回数が25回未満だったそうです。プレイヤーのマッチングにレーティングが存在しない闘技場ではプレイヤーのランク付けが若干特殊であり、ベストなプレイヤーを選ぶためには標本の最小値を設ける必要があったのでプレイ回数が100回以上が足切りラインとなったそうです。
※ 1回だけ闘技場に挑戦しそこで12勝した人は平均勝率12勝になってしまうため
source - Iksar [reddit]
※ 公式からのコメントはありませんが、クラス別のトッププレイヤー選出は最低プレイ回数が10回に設定されていると読み取れます
◆ 補足2、ランクインしたプレイヤーの情報
Kripp ・・・ Twitchストリーマーとしてお馴染みのおじさん(TSM Kripparrian [Twitter])
BattlePants ・・・ 同じくTwitchストリーマーのHafuが使用するサブアカウントのひとつ(Hafu [Twitter])
twlevewins・・・ NAサーバーに限定すればKrippすら遥かに超える最多勝利数のプレイヤーもストリーマーでした(NA Most Persistent Arena Player PogChamp [Twitch])
インフォグラフィック公開の背景
公式から闘技場の統計データが発表された背景をおさらいしておきましょう。今回の発表は開発チームの急な思いつきではなく、コミュニティからの要望に応えたものなのです。
クローズドβ期から存在する古い歴史を持つこのゲームモードには、これまで様々な要望が開発チームに寄せられてきました。しかしe-sportsのフォーマットとして構築戦を主眼に置くBlizzardからは顧みられることがほとんど無く、つい先日の闘技場バランス調整などは非常に珍しい対応なのです。
参照リンク:
炉辺談話: 今後導入される闘技場の変更について by Dean Ayala [Battle.net]
ほとんどのユーザーの関心が構築戦に占められている中でも闘技場を愛好するプレイヤーは一定数存在し、著名な配信者達を先頭にして開発チームへと闘技場の改善案を送り続けてきました。今年の4月には著名ストリーマーのHafuが自身の配信へとBen Brode氏を招待しインタビューすることに成功しています。
参照リンク:
闘技場のマッチングに関する開発者インタビュー [RNG it!]
そのインタビューでコミュニティの要望として伝えられた中には、素晴らしい戦績を残したプレイヤーを表彰するリーダーボード(Leaderboard)を公式が提供して欲しいという提案がありました。他のプレイヤーと競争する闘技場トーナメントや合同ドラフトのような新システムの開発が難しいならば、現実的な案としてプレイヤーの戦績を可視化することで闘技場モードの競技性を高めてほしいという要望です。
この提案は古くから訴えられてきたものであり、公式がいつまでも対応しないためTwitch配信に基いて非公式のリーダーボードを作成する試みがコミュニティでは行われてきたのです。
参照リンク:
Arena Streamer Leaderboard, 2016-05-30 [Googledocs]
Arena Streamer Leaderboard [1mb.info]
今回の統計に見られた問題点
普段から闘技場モードに真剣に取り組んで腕を磨くプレイヤー達を表彰する今回のインフォグラフィック公開は素晴らしいものでした。Kripparrianがただの社会不適合者ではなく本物の才能を持つゲーマーであることが改めて証明されましたし、わたし達がまだまだ知らない実力者達が世界には大勢存在することを知らせてくれました。
何よりも、Blizzardがコミュニティの要望に応え闘技場モードの改善に踏み出そうとしている姿勢を見せてくれていることは将来に希望が持てるでしょう。ただし、課題はいくつも残っています。まず今回のような統計をただ公開するだけでは、真剣に闘技場に取り組むプレイヤー達が納得を得られるものではありません。
問題点その1、統計に信憑性が無い
まず大前提ですが、統計というものは恣意的に操作できます。集計されたデータから都合よく切り取ればいかようにも見せることが出来るため、統計に対する信頼が担保されなければなりません。Blizzard公式のものだから頭から信じたいところですが、今回の統計には大きな穴があります。それはプレイ回数が100回以上という足切りラインです。
これが仮に足切りラインを150回に設定していたらランキングはどうなったでしょうか?アメリカーサーバーで2位のBattlePants(Hafu)は対象外となりKrippが2位に繰り上がります。足切りラインが200回だったら?1位のAlumnが脱落してサーバートップはKrippとなります。足切りラインを動かせばランキングの結果は幾らでも入れ替わるということですね。仮に50回が最低ラインだったとしたならば、Krippはトップ3に入れなかった可能性もあるのです。
つまり、今回のプレイ回数が100回以上というラインの設定が妥当であることの説明をBlizzardは示さなければなりません。開発チームのIksarはredditへのコメントにおいて、1回では少なすぎるし1000回では多すぎる、としか語っていません。100回以上というラインの設定をBlizzardは事前にプレイヤー達へ告知していたでしょうか?していませんね。
source - Iksar [reddit]
さて皆さんはこの統計方法の合理性が思い浮かぶでしょうか?切りが良い数字だから100回なんて説明で納得できるでしょうか。クラス毎のトップ選出がプレイ回数10回というのも余りに少ないサイズです。もしその部分を説明できずに、たとえば一般の企業で統計の結果としてこれを上司に提出したらむげに突っ返されてしまうでしょう。
問題点その2、プレイヤーに競争のフォーマットを提示していない
たとえば以下のような仮定の状況を思い浮かべてください。
とある公園にジョギングを行うのに適したランニングコースがありました。そこではジョギングを愛好する大勢の人々が日々汗を流しています。そして公園のランニングコースを走る人々の顔ぶれはさまざまです。暇つぶしや健康のために走る人もいれば、走ることを競技として取り組むランナーも居ます。
そうしたさまざまな目的や目標を持った人々は同じランニングコースを走っていますが、競い合うようなルールが基本的に存在しないのでみんな思い思いのペースでジョギングに取り組んでいます。時々ランナー同士の合意によるルールで競争が行われることもありますが、普遍的な競争のフォーマットが存在しないため自己ベストを向上させる以外の先はありません。
そこへ突然、公園の管理人であるBlizzardの社員が現れて言いました。
「ハイ!ここまで!ここまでね~。8月末で締め切りです。今年の1月から8月末までに皆さんが公園を走った成績をただいま発表します。前もって言ってませんでしたが発表することをさっき決定しました。ちなみにこの公園を100周していない人は集計対象外です。足切りラインは100周ね。たった今決めました。はい、それ未満の皆さんは残念賞!そして100周以上している皆さんの中から、栄えあるベスト3を発表します。はいアンタとアンタとアンタね。あなた方を公園のトップ3に公式認定します。おめでとうございます!」
いかがでしょう。ダイエット目的でジョギングしているわたしのようなカジュアルランナーからすれば面白い見世物です。思いも寄らずランキングに載った人は大喜びでしょう。しかし、闘技場に対して競技的に取り組んでいた人々にとっては、控え目に言ってファッキン以外の言葉が出てこないのではないでしょうか。
闘技場モードに競技性がもたらされることを願う人々にとって必要なのは、今回のような不意打ちの統計発表ではありません。競技に参加する者が事前に合意するルールが存在し、競技者達のパフォーマンスが定期的に示されることが必要です。
今回のインフォグラフィックは次回の発表を約束していません。競技的なランナー達は今後、何を指針に走ったら良いのでしょうか?またいずれどこかで不意打ちの発表が行われることに怯えることはないでしょうか?明らかに闘技場で不利なヒーローを、”楽しみ”のために彼らは選択することが出来なくなります。次回の発表がいつどのタイミングで行われるかもしれないからです。
このような闘技場プレイヤーの切なる願いを闘技場ストリーマーとしてよく知られるMerpsはredditで訴えており、開発チームのIksarと意見交換しています。事前にルールを提示した上で、今回のような統計情報かリーダーボードが公式から定期的に公開されることで、闘技場プレイヤーの長年の要望が実現される未来へと踏み出していけるのではないでしょうか。
Merps4248 [reddit]
そして要望というものは声にして届けなければ伝わりません。日本の公式フォーラムに書き込んでどれほどの意味があるかは判りませんが、闘技場の改善を望む人は自分の声を届けていくべきでしょう。1ユーザーの声は小さくとも、たくさん集まればBlizzardの目に留まるかもしれません。
公式フォーラム:一般的な話題 [Battle.net]