新たなカードセット「旧神のささやき(Whispers of the Old Gods)」が遂にリリースを迎えました。さらに解禁日の4月27日には予告されていた通り、このゲームで初めての試みとなるフォーマット制度が導入されています。
新カードセット解禁と同時に今年のスタンダードフォーマット「クラーケン年/Year of Kraken」が開始となり、NaxxとGvGの脱落に伴い少数のカードにバランス調整も行われました。長らく待ち焦がれた環境の大変動が訪れたことで、プレイヤー達は皆一様にゲームプレイの新鮮な発見を夢中な様子で楽しんでいるようです。
OldGodsリリースから一週間が経過したばかりの現在において、数百枚のカードが入れ替わった環境のメタゲームを手のひらにのせて見るように把握することは難しいでしょう。この環境を主導するデッキの候補は絞りきられておらず、メタゲームの主流はまだ判然としていません。日々新たなデッキリストが注目を集め、プレイヤー達がとっかえひっかえ様々なデッキを試している中では構築相性の研究もままならないと思います。
さてこの記事では、OldGods拡張版リリース直後に強い印象をもたらしたカードやデッキリストを手がかりとして、今後どのようにメタゲームがプレイヤー達の間で形作られていくかの過程にせまっていきたいと思います。
Index
▼ Meta Snapshotと今週の注目デッキ
▼ 新環境の現在
▼ 旧神を信奉するもの
▼ 甦るクラシックデッキ
▼ Dr. Boomのいない世界
▼ プレイヤー達から選ばれるデッキ
Meta Snapshotと今週の注目デッキ
Meta Snapshot
Meta Snapshot The New Standard [TempoStorm]
Meta Snapshot The New Standard [reddit]
◆ Tierの変動
◆ マッチアップチャート (クリックで拡大)
◆ 今週の注目デッキ
ドルイド/Druid
7Boom Extensive C'Thun Druid Guide [reddit]
LifeCoach's Season 26 (Standard, Old Gods) Y'Shaarj Ramp Druid [Topdecks]
ハンター/Hunter
[Spark] Beast Rattle [Hearthpwn]
7Boom Midrange Hunter [Mana Crystals]
メイジ/Mage
Yogg-Saron Tempo Mage - High Winrate [Hearthpwn]
LaughingHS' Top 20 Legend Freeze Mage [Twitter]
パラディン/Paladin
Sigma's Dreamrattle Paladin! [Short guide included!] [Hearthpwn]
Prelude's N'Zoth Paladin (1st Place EGLX Tournament) [Twitter]
プリースト/Priest
Xaphire's N'zoth Control Priest [Hearthpwn]
Eloise's Dragon Priest [Twitter]
ローグ/Rogue
[Martibis]Miracle Leeroy 2.0 [Hearthpwn]
Kolento's Malygos Rogue [Twitch]
[Spark] Shadow Raptor [Hearthpwn]
Detailed C'Thun & N'Zoth Rogue Guide [reddit]
シャーマン/Shaman
#1 April Loyan's Bloodlust Shaman Guide [reddit]
(TOP500)LEGENDARY Faceless Einstein Shaman [Hearthpwn]
ウォーロック/Warlock
[Season 25 Legend] Guide to Zoo post WotOG [reddit]
Prelude's Reno Warlock (1st Place EGLX Tournament) [Twitter]
Amnesiac's Legend Handlock [Twitter]
ウォリアー/Warrior
Yo-ho-ho! Top 10 NA Pirate Warrior [reddit]
LOKShadow Aggressive OTK Warrior [Hearthpwn]
Sjow's Legend C'Thun Warrior - 69.7% Winrate [Mana Crystals]
BoarControl's Rank 3 Legend Tempo Warrior [Mana Crystals]
新環境の現在
メタゲームが醸成されていく過程を考えてみようとは言うものの、メタゲームと呼ばれるものは形があって無いようなもので常に不定形であり静止することはありません。ではどうやってそんなものを把握すればよいのか。その方策をメタゲームの概念に求めても、これを論理で体得するには非常に多くのサンプルと研究時間を必要とするでしょう。
ともあれ実存は本質に先立つと言われるようにメタゲームとはなんぞやから勉強し始める必要まではありません。これまで約三年間に積み重ねられたハースストーンの歴史からパターン性を見出しあてはめていけば、おおよその動向は予測できるのではないかと考えられます。
それでは過去の例に照らして想像していきましょう。これまでカードセットの追加は今回のOldGodsに加え拡張版がGvGとTGT、アドベンチャーはNaxx,BRM,LOEの計6回となります。新カードがリリースされると構築意欲を刺激されたプレイヤー達によって実に多種多様なデッキが制作され、ラダーを通じて試行錯誤が行われます。ちょうど今この時がその段階にあたりますね。
この過程は新デッキそれぞれの完成度を高めていくと同時に、環境を主導するのはどのデッキ達なのかを選別していく段階でもあります。ここで述べるメタゲームの牽引役とは何も最強のデッキであると完全に証明されたものである必要はなく、様々な要因が複合し結果的に勢力を高めたデッキ達のことを指しています。GvGのMech Mageなどはその典型で、GvGリリース当時もっとも有力なデッキでは無かったかもしれませんが、その存在を無視してデッキを組むことは出来ないほどの勢力を保っていました。
さてまずは今回の拡張版リリース直後、プレイヤー達のデッキはそれぞれの構築思想に基いて最もバリューを獲得するカード達をデッキに採用し、ぶつかり合う中で現在のラダーにおいて有効なカードや構築の傾向を探り合っていきます。
今のハースストーンは漫画で表現したらこんな感じ pic.twitter.com/T3MeyZ64ji
— でみあん (@de_mi_an) 2016年4月28日
要するにこんなところでしょう。ありていに言えば、主流なデッキ傾向すら皆目つかめない時点ではメタゲームも何もあったもんじゃありません。俺の理不尽をくらえ!と真正面から殴り合い、現環境で勝てるデッキはなんなのかをみんなで探る状態からメタゲームが始まります。
こうした中から台頭してくるのは当然といえば当然ですが、新カードを基軸として構築される新たなコンセプトのデッキ、またはカードの追加によって新たなシナジーを吹きこまれた既存の構築デッキ達です。
旧神を信奉するもの
今回の拡張版を象徴するミニオンとして三体のOld Gods(旧神)がカードコレクションに加わりました。原作World of Warcraftの舞台であるアゼロス世界に古くから存在し、あの《炎の王ラグナロス / Ragnaros the Firelord》をすら配下に従えるという強大な存在にふさわしいインパクトをゲームにもたらしています。旧神に導かれたデッキ達が目論見通りにラダーで成功を収めている現状を、開発チームはさぞ満足気に眺めていることでしょう。
まず何よりも、デッキに1枚しか入らず10マナを必要とする遅いカードが新たな構築スタイルを確立したことは驚くべきことです。ここで比較するのは《レノ・ジャクソン / Reno Jackson》という前例よりも、《ケルスザード / Kel'Thuzad》が適当でしょう。Naxxで追加されたこのミニオンは適切に機能すれば、旧神にも劣らない凄まじいアビリティを備えています。このミニオンが今回同様の成功を収めることが出来なかったのは、Naxxリリース当時の早い環境がそれを許さなかったという見る向きもありました。しかし実装からほとんど2年を通じてカードコレクションに眠り続けていた言い訳としてはもはや苦しいでしょう。《ケルスザード / Kel'Thuzad》の採用を検討する遅いデッキとこのミニオンのギミックは合致しなかったのです。
今回の拡張版において開発チームは旧神デッキが成功する現在の環境を作りだすべく用意周到に準備を整えていたことを伺えます。Druidのダブルコンボを潰し、《魔力のゴーレム / Arcane Golem》のOTKを封じたのもその一環と考えられます。そして今回の拡張版では追加されたミニオン102体中にCharge/突撃アビリティを持つ者が1体も存在しないことからも、露骨なほどに開発チームが意図する新環境の有り様が見えてきます。
参照リンク:OldGods(旧神)カードセット実装後の統計 [サイト内リンク]
C'Thun & Cultists
注釈:
《クトゥーン / C'Thun》との特別な作用を持つ17体のミニオン達を指してコミュニティではCultist(カルティスト)、さらにbuffを捧げるタイプのミニオンの場合はActivator(アクティベイター)と呼ばれることがあります。
このActivatorというのは今回の拡張版で登場した特別な用語ではなく、カードコンボのピースを言い表す場合に頻用されるので憶えておくと役に立つかもしれません。例えば《残酷な現場監督 / Cruel Taskmaster》は《グロマッシュ・ヘルスクリーム / Grommash Hellscream》のActivatorとして機能します。また、《邪悪の誘い手 / Beckoner of Evil》等をActivatorと呼び表す場合《クトゥーン / C'Thun》そのものよりも、攻撃力10の条件を満たすことで《双皇帝ヴェク=ロア / Twin Emperor Vek'lor》のような強力なミニオンのアビリティを活性化させることを念頭に置いた文脈で使われることもあります。
さて、《クトゥーン / C'Thun》は今回の拡張版カードパックを開封したすべてのプレイヤーが最初に獲得できるミニオンであり、当然この旧神をフィニッシャーに迎えた構築が拡張版リリース後もっとも多く試されていました。《クトゥーン / C'Thun》にbuff効果を捧げる特殊なミニオン達はクラス中立がほとんどであるため、おそらく全てのクラスでC'Thun構築が試されたでしょう。その中でも一際パワフルな活躍を最初に披露したのは、特別にクラス専用Cultistが2体も与えられたDruidです。
◆ C'Thun Druid
デッキリストサンプル:
[75% Winrate Rank 5 to LEGEND] C'Thun Druid - Nature Welcomes Our New Overlords! [Hearthpwn]
C’Thun Ramp Druid (Standard) WotOG Deck List Guide (Season 26) – May 2016 [Topdecks]
対戦相手を上回るマナカーブのミニオンプレイを最大の武器とするRamp Druidを構築思想をベースとして、C'Thunシナジーのミニオンによって構成されたデッキ。《自然の援軍 / Force of Nature》がカード調整の対象となり9マナ14点コンボが不可能になったDruidにとっては、今後しばらく主流な構築スタイルとして定着するであろうと確信させるほどの安定感を見せています。
Druidに与えられた専用Cultistミニオンはどちらも優秀であり、仮に2ターン目3ターン目と連続してC'Thun buffを重ねたならば《クラクシの琥珀織師 / Klaxxi Amber-Weaver》は4ターン目に4/10という強大なスタッツで召喚可能です。しかしそれでも初手の《野生の繁茂 / Wild Growth》が最優先されることに変わりありません。その理由の第一として、buff効果を捧げるタイプのCultistミニオン達に設定されたアビリティの多くは盤面展開の競争力に欠けているため、他の構築と戦うために何らかのプラス作用を必要とします。Druidの場合、相手を上回る最も簡単で確実な手段はお馴染みのマナブーストになります。そしてもう1体のCultistである《闇アラコア / Dark Arakkoa》などのタフな挑発/Tauntミニオン達がアグレッシブなデッキの攻勢をシャットアウトしてくれることも重要な理由として存在します。
◆ C'Thun Warrior
デッキリストサンプル:
[S25 Legend] C'thun Warrior [Hearthpwn]
Thijs' C'Thun Warrior [Twitch]
一部のデッキタイプにとって悪夢のようなアビリティを持つCultistミニオンを追加されたWarriorも、現時点のC'Thun構築で最も成功した例に挙げられます。新カード《古代の盾持ち / Ancient Shieldbearer》の能力からその性質は予想するまでもありませんでしたが、伝統的なControl Warriorの構築とC'Thunシナジーは見事な融合を果たしました。
構築の実態はControlデッキであるため対戦相手によってそのウィンコンディションは異なりますが、興味深いことに勝ち筋をさまざまに工夫したデッキバリエーションがすでに幾つも登場し始めています。Fatigueに近いほどより効果的であり、フィニッシャーだけでなくディフェンシブにも使える《クトゥーン / C'Thun》を構築の中心に据えつつさらに加えられたもう一つの要素、《エリーズ・スターシーカー / Elise Starseeker》を採用したデッキリストがこの一週間中に人気を集めていました。このミニオンはControlヘビーなデッキとのマッチアップが多いほど効果的な選択肢ですが、《ハリソン・ジョーンズ / Harrison Jones》のようなテックカードと天秤にかけられているようです。
また一部では、C'Thun buffがデッキに《クトゥーン / C'Thun》本体が存在しなくとも機能する性質を利用し、デッキにこの旧神を採用しない例も幾つか散見されました。10マナまで、またはそれ以降も腐るカードを手札に呼び込まずにすむことが《クトゥーン / C'Thun》本体を採用しない利点であり、この構築例での勝ち筋は前環境と同様に《エリーズ・スターシーカー / Elise Starseeker》が大きな比重を占めています。
◆ C'Thun Priest
デッキリストサンプル:
Exploring the possibilities of C'thun priest [Mana Crystals]
C'thun Priest deck showcase [Youtube]
旧神ミニオン達が軒並み10マナという重いコストであるためControlに比重を置いた環境となっていくことは自明のことです。Priestはミニオン除去の重要なツールであった《光爆弾 / Lightbomb》を失いましたが、Controlデッキのマッチアップが増加するこの環境では《埋葬 / Entomb》に後押しされ存在感を発揮できそうです。
デッキの性質はControl型ですが、C'Thun buffを起動するミニオン達が(当然)含まれているためそのプレイスタイルは旧来のControl Priestと大きく異なります。ゲーム序盤からのミニオンドロップがほとんどのマッチアップで定石となり、《黄昏の鎚の暗黒治療師 / Twilight Darkmender》が控えているためヒーロー自身とミニオンの体力、盤面の状況に適切な対応を可能とする柔軟性が大きな長所です。ただしまだ《ヴェレンに選ばれし者 / Velen's Chosen》の喪失をどのように克服するかがひとつの課題として残っているようにもうかがえます。
◆ キーカード
C'Thun構築のミニオン達が持つアビリティは雄叫び/Battlecryに集中していることから予想されていた通り、自分のプレイ選択であれ相手のプレイを想定するのであれ《ブラン・ブロンズビアード / Brann Bronzebeard》の存在が常につきまとうようになりました。
◆ Cultist
C'Thun buffの基礎ユニットである2,3,4のミニオンはやはり《クトゥーンに選ばれし者 / C'thun's Chosen》の優秀さが光りました。
前評判を上回った優秀なCultistの2体。対象を選ばず2ダメージを与える《クトゥーンの門弟 / Disciple of C'Thun》はControl型のC'Thun構築において既に欠かせない存在となっています。そして《双皇帝ヴェク=ロア / Twin Emperor Vek'lor》は7マナと少し重たいもののC'Thun構築ならばさほど厳しくはない発動条件であり、現環境において不利な盤面を即座に拮抗させてくれます。
◆ nターン目に《クトゥーン / C'Thun》の攻撃力が10に達する確率
アグレッシブなデッキに追いつめられても《黄昏の鎚の暗黒治療師 / Twilight Darkmender》で急死に一生を得るような場面もあるでしょう。またはWarriorならば《古代の盾持ち / Ancient Shieldbearer》によって加算される装甲/Armorを《シールドスラム / Shield Slam》用に必要とする展開もあるはずです。「クトゥーンの攻撃力が10以上ある場合」という条件をどのように満たすかはC'Thun構築において抜きがたい重要な要素となり、必要とする時までにbuffを十分重ねておくためにはCultistミニオン達をどの程度デッキに採用すべきかを勘案することになります。
+2/+2のミニオンという条件で何体デッキに存在すれば特定のターンに要件を満たすと期待できるか、その確率を計算した表がredditに投稿されていたのでご参考までに。
参照リンク:
Probability of Cthun 10 - Aka How many Cthun buff cards should I run? [reddit]
◆ buff型Cultistのおさらい
中立/Neutral(+2/+2)
《邪悪の誘い手 / Beckoner of Evil》
《クトゥーンの門弟 / Disciple of C'Thun》
《クトゥーンに選ばれし者 / C'thun's Chosen》
《スケラムの狂信者 / Skeram Cultist》
《破滅の招き手 / Doomcaller》
中立/Neutral(ターン経過+1/+1)
《黄昏の鎚の長老 / Twilight Elder》
中立/Neutral(このミニオンがダメージを受けるたび+1/+1)
《熱狂する信者 / Crazed Worshipper》
ドルイド/Druid(+3/+3)
《闇アラコア / Dark Arakkoa》
メイジ/Mage(呪文使用につき+1/+1)
《カルトのソーサラー / Cult Sorcerer》
プリースト/Priest(回復効果発生につき+1/+1)
《フードの侍祭 / Hooded Acolyte》
ローグ/Rogue(破壊対象のスタッツ分)
《クトゥーンの刃 / Blade of C'Thun》
ウォーロック/Warlock(味方ミニオンが死ぬたび+1/+1)
《魂の案内人 / Usher of Souls》
N'Zoth & Deathrattle
破壊された断末魔/Deathrattleアビリティのミニオン達をボードへ呼び戻す《頽廃させしものン=ゾス / N'Zoth, the Corruptor》の追加は、古いアーキタイプの復活と新たな構築スタイルの模索に可能性をもたらしました。失われていたControl Paladinが第一線で争うデッキへと復活を遂げたことがまず目を引きますが、Rogueの構築に大きな影響を与えていることも要チェックです。
◆ N'Zoth Paladin
デッキリストサンプル:
Senfglas' N'Zoth Paladin [Twitter]
70% win rate N'Zoth Paladin (rank 2 - legend) [reddit]
クラス固有の優秀な断末魔/Deathrattleミニオン《ティリオン・フォードリング / Tirion Fordring》の存在、Controlデッキのプレイを助ける新たな追加カード《禁じられし癒し / Forbidden Healing》・《光の王ラグナロス / Ragnaros, Lightlord》、さらにカード調整による沈黙/Silenceミニオンの弱体による採用率低下など様々な要素が噛みあった結果、Control Paladinはラダーシーズン最初期の頃に見せた粘り強さと輝きを取り戻しています。
失った断末魔/Deathrattleミニオンが《頽廃させしものン=ゾス / N'Zoth, the Corruptor》によって甦ることを背景にした圧力そのものが脅威的であり、Control同士のマッチアップではこの点に駆け引きが集約されています。特にWarriorとの鍔迫り合いは明瞭にプレイングが試されるシーンとなるでしょう。様々な体力回復手段と強烈なボードワイプの手段を併せ持つPaladinはゲーム終盤のバーストダメージを持たないという欠点こそ克服できていませんが、特定のコンボデッキを除くあらゆる構築スタイルに対して対等以上に戦える完成度へと達しています。
◆ N'Zoth Rogue
デッキリストサンプル:
Incredible Control Rogue - Guide Included [Hearthpwn]
Thijs - Deathrattle Rogue #1: Shadowcaster Value [Youtube]
《掘り起こされたラプター / Unearthed Raptor》や新カード《シャドーキャスター / Shadowcaster》を主軸とするテンポ型のDeathrattle Rogueとはプレイングが異なり、N'Zoth Rogueは断末魔/Deathrattleミニオンを《頽廃させしものン=ゾス / N'Zoth, the Corruptor》によって呼び戻すことが出来るためControlに徹した構築となっています。
勝ち筋の組み立てはN'Zoth Paladinとほぼ共通しており、テンポコントロールに優れているのが特徴ですが体力回復手段の欠如が大きな課題と言えます。また、久方ぶりにMiracle Rogueの構築スタイルが復活した煽りを受ける形でこのデッキのプレイヤーは拡張版解禁直後をピークに減少し続けています。
◆ N'Zoth Priest
デッキリストサンプル:
Zetalot's Deathrattle Priest [Twitter]
StrifeCro's N'Zoth Priest [Twitch]
Priestというクラスの場合はPaladin・Rogue以上に多様な可能性を期待できますが、旧来のControl型Priestの構築と断末魔/Deathrattleがミックスされたデッキが現在の主流となっています。現在のWarriorやN'Zoth Paladinが最も嫌がる候補に挙げるほどControlデッキのマッチアップに有利な材料を揃えており、ラダーでプレイする際はデッキに採用する断末魔/DeathrattleとAOE、除去スペルの配分が重要な鍵となります。
Yogg-Saron & Spell
《希望の終焉 ヨグ=サロン / Yogg-Saron, Hope's End》が構築戦に顔を出すことはあまり考えたくない可能性でした。しかし実際にこのミニオンの使用を想定したデッキが登場し、ラダーにおいても一定の競争力があることを示したことは事実です。
攻撃的な呪文とシナジーを揃えたMage、《発射準備 / Lock and Load》によってカード補充を可能とするHunterのデッキリストを頭の片隅にとどめておくべきかもしれません。《希望の終焉 ヨグ=サロン / Yogg-Saron, Hope's End》はまさしくゲームチェンジャーであり、優位を運んでくる期待値は実装前よりも大きく見直されています。
参照リンク:
What Does Yogg-Saron Do? And Is That Good? A Short Monte Carlo Evaluation [reddit]
デッキリストサンプル:
Amaz's Yogg-Saron Tempo Mage [Twitter]
Nevilz's Yogg-Hat Control Hunter [Twitter]
甦るクラシックデッキ
新カードの追加は新しいデッキを創造するだけではなく、前環境で姿を消していた古いデッキを呼び覚ますきっかけともなります。環境へ還ってきたのはControl Paladinだけではありません。2014年のメタゲームを彷彿させるRamp Druid・Miracle Rogue・Midrange Shamanなど古典デッキのリバイバルもチェックしておきましょう。
◆ Miracle Rogue
デッキリストサンプル:
Flood's Cold Blood Miracle Guide [Mana Crystals]
Cipher's Top 100 Legend Miracle OTK Rogue [Twitch]
「Miracle Rogue」は《ガジェッツァンの競売人 / Gadgetzan Auctioneer》をドローエンジンとして低コストな呪文の連携を最大化させるRogueのもっとも古いコンボデッキです。2014年に華々しく活躍し、《リロイ・ジェンキンス / Leeroy Jenkins》と《ガジェッツァンの競売人 / Gadgetzan Auctioneer》のnerf調整によって廃れていった波乱の歴史を持つこのデッキはLOEの《墓荒らし / Tomb Pillager》が追加されたことをきっかけに一部で見直す動きもありました。
そしてここへきて再びメタゲームに大きな存在感を発揮しているのは、Control Paladinの復活と同様に複数の要因が重なった結果です。《大物ハンター / Big Game Hunter》と沈黙/Silenceミニオンの採用率低下は《エドウィン・ヴァンクリーフ / Edwin VanCleef》を今一度脅威へと仕立てあげ、不得手なAggroデッキが減少しカードコンボを行う余裕が十分に確保できるControlとのマッチアップが増加しました。もちろん《蠱毒なザリル / Xaril, Poisoned Mind》や《影の一閃 / Shadow Strike》と新しいパーツが追加されたことも理由のひとつです。
《千刃乱舞 / Blade Flurry》のnerf調整が大きく響いてAoEを失ったことがひとつの懸念として残り、Face aggroを苦手とするのは相変わらずなのでAggro ShamanとWarriorの新しいAggroデッキには容易にラッシュダウンされてしまうものの、現在の環境はMiracle Rogueに素晴らしい追い風を与えています。
◆ Ramp Druid(& Midrange Beast mode)
デッキリストサンプル:
Top 50 finish, Ramp Druid [reddit]
Lifecoach plays Ramp druid with Y'Shaarj - WotOG [Day 7] - S26 [Youtube]
Druidはクラーケン年/Year of Kraken開始に伴い《木立の番人 / Keeper of the Grove》・《自然の援軍 / Force of Nature》のクラス専用カードがバランス調整対象となりました。これによって前環境まで常にプレイヤー達から高い信頼性を勝ち取ってきたダブルコンボ入りのDruidは構築を一から見直す必要を迫られています。それでも自然を守り続けるプレイヤー達は、このクラスがいまだオーバーパワーであり開発チームはnerfすべきカードを間違えたとも考えています。
マナブーストによって相手よりも高いマナカーブでミニオンをプレイしていけば競り勝つというシンプルな強さがその信頼性の根拠に置かれており、特に同じDruidデッキのC'Thun構築とのマッチアップでは素晴らしく効果的に機能しています。《古代地の番人 / Mire Keeper》という新たな増援を獲得したこともRamp Druidが完全復活した要因に挙げられます。
しかし、盤面に効果的に作用する除去手段(AoE・確定除去)に相変わらず乏しいDruidにとっては他に生きる道は無いのでしょうか。もうひとつの可能性は獣/Beastの種族特性に特化したBeast Druidです。このクラスに獣/Beast種族とのシナジーが追加され始めたのはGvGからであり、これまで幾度もBeast Druidが試されてきました。《ヤシャラージュの烙印 / Mark of Y'Shaarj》と《ファンドラル・スタッグヘルム / Fandral Staghelm》のカード追加には、今度こそ成功させるという開発チームの期待が込められているようにも見えます。
◆ Midrange Shaman (Bloodlust or Evolution)
デッキリストサンプル:
#1 April Loyan's Bloodlust Shaman Guide [reddit]
[Legend] Midrange Darwin Shaman + Evolve Stats! [Hearthpwn]
LOEの《トンネル・トログ / Tunnel Trogg》追加はShamanをメタゲームの一角まで押し上げてくれましたが、皮肉にもそれはGvGのMech Shamanが姿を変えただけのAggroデッキでした。Shaman Midrangeの構築を環境へ取り戻すという開発チームの意図が明け透けな今回の追加カード達は果たして成功するのでしょうか。
いま現在もっとも支持を受けている構築スタイルのひとつはEUのプレイヤーLoyanが構築したデッキです。見る人によってはAggro、別の視点ではMidrangeと捉えられ、デッキビルダーのLoyan本人はその中間として単純にBloodlust Shamanと呼んでいます。Face Aggroから序盤のボードコントロール重視へとシフトしたこのデッキは丁度Aggro Druidと似通った性質であり、やはりまだMidrangeと考えるには前のめりのようにも見えます。
《進化を統べるもの / Master of Evolution》や《進化 / Evolve》によってカードバリューを高めるMidrangeの構築は拡張版リリース直後こそ注目を浴びていたものの、アグレッシブなデッキの人気に押される形で影を潜めています。
Dr. Boomのいない世界
ここまで新しく登場したデッキや復活したアーキタイプに着目してきました。ここですこし視点を変えて、カードのローテーションがメタゲームにどのような影響を与えているかを考えていきましょう。
Aggroデッキの現在
新環境のメタゲームは以前よりも遥かに遅い展開へとシフトし、プレイヤーたちのデッキ構築はカードバリューをより重要視していくようになります。そこで貪欲なデッキを罰する役割を担うのがAggroデッキのメタゲームにおける立ち位置であり、ゲームバランス上でも重要な存在となります。ここでまず、Naxxの《ヘドロゲッパー / Sludge Belcher》・《デスロード / Deathlord》などディフェンシブな性格のミニオン達の脱落が現在のデッキ構築に最も影響を与えているようです。
5マナ挑発/Taunt2枚重ねのミニオンが消失したことは想像していた以上に重みを持ち、Aggro vs 遅いデッキのターニングポイントは6、7ターン目へと移りました。現在の早いデッキは7ターン目前後に押し切ることが目安となり、Druidの《戦の古代樹 / Ancient of War》、Paladinの《平等 / Equality》、Warriorの《古代の盾持ち / Ancient Shieldbearer》、または《双皇帝ヴェク=ロア / Twin Emperor Vek'lor》へと遅いデッキが辿り着けば状況は一気に逆転します。
この環境で有効なAggroデッキの候補は現在、Hunter・Shaman・Warlockの定番クラスに加えてPaladinとWarriorの新デッキが注目されています。
デッキリストサンプル: ハンター/Hunter
Smorc Hunter [Hearthpwn]
S25: Top 17 legend hybrid hunter in-depth guide [Hearthpwn]
デッキリストサンプル: パラディン/Paladin
Divine Aggro (84% WR to legend) [Hearthpwn]
Sixenm's Legend Divine Aggro Guide [Mana Crystals]
デッキリストサンプル: ウォリアー/Warrior
Pirate Aggro Warrior (Top 500 Legend EU) [Hearthpwn]
[Top 50 Legend 75%+wr] Pirate Aggro Guide [Hearthpwn]
場残りのよいミニオンの喪失
《呪われた蜘蛛 / Haunted Creeper》・《ネルビアンの卵 / Nerubian Egg》・《手動操縦のシュレッダー / Piloted Shredder》・《ヘドロゲッパー / Sludge Belcher》、これら断末魔/DeathrattleによってTokenミニオンを生成するタイプはミニオントレードに非常に有効な存在でした。付け加えて、これらは中立/Neutral属性であったためクラスごとの特徴を薄めてしまうと指摘されていた部分でもあります。いわゆる"Sticky"なミニオン達の喪失を埋める工夫には第一の成功例であるPaladinの聖なる盾/Divine Shieldのように、クラスそれぞれの特徴がより鮮明に反映されていくようです。
とりあえずのDr. Boomはもういない
Goblins vs Gnomesがリリースされた2014年12月以降、良くも悪くもゲーム後半の定番カードとして存在していた《ドクター・ブーム / Dr. Boom》がお亡くなりになりました。7マナで強烈に盤面をプッシュするこのミニオンは非常に対処が厄介であるため、志向の異なるデッキタイプであっても採用しない理由を見つけるのが難しく、これまで数多くのデッキで使われてきたミニオンです。
消極的な理由ではありますが、このことが《ドクター・ブーム / Dr. Boom》よりも価値を見出だせなかったゲーム後半のミニオン達に光を当て、より構築の性質に沿ったミニオン選択が行われていくようになりました。
プレイヤー達から選ばれるデッキ
それでは最後、新しいデッキの登場と古いデッキの復活に目移りしそうになる中で、この新しい環境をリードしていく存在として選ばれるのはどんなデッキになるか考えてみましょう。
多数のプレイヤー達から選ばれる重要な要因のひとつには、お手軽であることが挙げられます。”お手軽”というと聞こえが悪いようですが、誰もが十分にカード資産を持っているわけではなく、誰でも時間のかかるデッキをラダーでプレイしたいと思っているわけでもありません。さらにプレイがお手軽であるほど、使い手を選ばず安定したパフォーマンスを発揮することも事実です。
さて、前環境で支配的であったSecret PaladinとMidrange Druidはデッキが崩壊し消えていきました。カードのローテーションで無傷に済んだAggro Shamanは新たに有力なミニオンを与えられ評価を高めています。比較的ダメージが大きいと見られていたZoo Warlockも驚異的に成長する《ダークシャイアの議員 / Darkshire Councilman》のような新カードの後押しで人気を保っています。統計をとったわけではありませんが、この二つのデッキとのマッチアップが比較的多いことを皆さんも体感しているでしょう。
デッキリストサンプル: Aggro シャーマン/Shaman
WoTOG Tempo SMOrc Shaman! [SectorOne]
[Top 100 legend] Saranjivac's SMOrc Shaman [Hearthpwn]
デッキリストサンプル: Zoo ウォーロック/Warlock
Top 3 Legend Warlock Zoo [SectorOne]
[WoToG] New Legend Zoo [Hearthpwn]
Aggro ShamanやZooのようにアグレッシブなデッキが数多くプレイされると、そのカウンターとして機能するデッキが人気を高めてきます。いま現在その最右翼として浮上してきたのはTempo WarriorとPatron Warriorです。また同様に、多くのプレイヤーがControlデッキを試している反動でコンボ型Rogueもこの新環境で居場所を見つけることができました。こうしたせめぎあいの中で最もバランスを重視している中道の存在は何かと見ていくと、意外なことにMidrange Hunterとなりそうです。
デッキリストサンプル:
Neobility's Patron Warrior (EGLX Tournament) [Twitter]
BoarControl's Rank 3 Legend Tempo Warrior [Mana Crystals]
[WotOG] Tera's Beast Hunter [Hearthpwn]
Old Gods Midrange Hunter [Hearthpwn]
終わりに
拡張版カードパックは4月27日に解禁されたばかりでメタゲームはまだ混沌としています。かつてBRMが実装されたばかりのころ、《ウォーソングの武将 / Warsong Commander》がまだ現役であったあのPatron Warriorが登場し、その恐ろしさが一般に認知されるまで一ヶ月を要しました。過去を振り返ればまだ現環境の結論を出すのは早すぎる段階なのは言うまでもありません。
まだ十分に試されていないデッキやカードシナジー、デッキ相性、トーナメント結果や著名な配信者、その他さまざまな要因によってこれからメタゲームが構築されていく過程は何よりも興味深く、わたし達のゲームプレイ体験を豊かにしてくれるはずです。
それでは、また来週(?)のデッキチェック記事でお会いしましょう。