先日ハースストーン公式ブログにて《地底の大洞窟 / The Caverns Below》のバランス調整予定が発表されました。このカードを軸に構築されたCrystal Rogue(Quest Rogue)はウンゴロ拡張版の実装によって誕生した新しいアーキタイプの中でも、とりわけクエスト系デッキにおいて飛び抜けた成功例といえます。しかしもはや過去形で語るべきかもしれません。無常にもブリザードのnerfバットでしばき倒されメタゲームから消えていくことになるというのが大方の予測です。
このデッキはクエスト条件達成によって得られる恩恵が破格であり、Control型やJade Druidなどの展開が遅いデッキ全てにとって忌避される存在です。クラス間バランスがユーザーから好評を得たウンゴロ環境においても、このデッキについては時おり不満の声が高まることがありました。このデッキへの適切な対処とはクエスト達成前に相手のヘルスを追い込む以外に無いという問題点も指摘されています。
今回予告されたカード調整が適正なものであるか賛否の分かれるところでしょうが、ひとまずこの記事ではnerf調整がもたらす影響をCrystal Rogueのデッキとメタゲームを視点に考察していきたいと思います。
バランス調整のお知らせ: 「地底の大洞窟」につきまして [Battle.net]
バランス調整のお知らせ: 「地底の大洞窟」につきまして
今後予定されるアップデートで、ローグ用のカード「地底の大洞窟」に調整が入れられる予定です。
「地底の大洞窟」の変更後の記述:“クエスト:同じ名前のミニオンを5体手札から使用する。報酬:クリスタルコア”
大魔境ウンゴロのリリース後、ハースストーンの対戦環境は、以前よりもバラエティに富むようになり様々なクラスが以前に比べ活躍しやすくなりました。そしてそれら全体のゲームプレイ内容を検証した結果、こういった環境において、それでも「地底の大洞窟」を調整する必要性があるという結論となりました。
「地底の大洞窟」は複数のコントロール系のデッキ、展開の遅めのデッキに対して、特に有利な特徴をもっており、しばしばそれらのデッキをあまりにも対抗手段が無い状況へと追いやることがありました。この変更は、現在とこれからの拡張版のデッキ選択の多様性を鑑みた上での有用な変更となります。
備考:「地底の大洞窟」は次回アップデート適用後から一定期間に限り、カード還元時の魔素が作成時の魔素と同量になります。
Rogueだけはかんべんしてくれ
ウンゴロリリース後のTwitchプレイ配信を観戦してきたなかで、テンポの遅いデッキを使用するプレイヤーの口から何度このようなセリフを聞いたか数え切れません。ランク向上を目指すプレイヤー達の脳裏にはCrystal Rogueの影がちらつき、切実に祈るような気持ちでキューを回しています。遅いデッキを使っている時に当たってしまったらどうにもならない交通事故のような対戦相手。時にフォーラムではこのデッキへの愚痴や怨嗟の声が溢れかえり、Brian Kiblerなどのプロプレイヤーから問題提起されることすらありました。
ドラゴンマスター怒りのコンシード
このデッキの特性はマッチアップ相性を見れば一目瞭然です。最新のvs Data Reaper Report #54によると、展開が遅いデッキ達に対しては平均勝率67%という異常な数値を記録しており、かたやAggroに対しては極めて脆弱であることが見て取れるでしょう。
このような極端な性格のデッキが存在することは、ゲームプレイの多様性において一定の価値を持つはずです。しかし出る杭はnerfバットで打たれるが世の習いというもの。とりわけインタラクティブ性(プレイヤー間のやり取り)に欠けるデッキは古くからnerf対象として目を付けられやすく、Crystal Rogueはあまりにも目立ちすぎ、ヘイトを集めてしまいました。壁に向かってソリティアやってろというプレイヤー達の不平不満はnerf調整の理由として十分なものだったのです。
参照: vS Data Reaper Report #54 [Vicious Syndicate]
Crystal Rogueは本当に死んでしまうのか
この問いに関しては、長期的な視点において追加カード次第でひるがえる可能性があります。仮に今の環境で死んでしまうとするならば、どのような理屈で死に至るのかを考えることにこそ意義があるでしょう。そこでまずはデッキのメカニズムを簡単におさらいしておきます。このデッキを愛好していた方もnerfザマァとか思ってる方もいましばらくお付き合いください。
◆ 異次元のマナ効率
Crystal Rogueのデッキパワーとは、クエスト達成後に自身のミニオン達が5/5スタッツへと変化することの異常なマナ効率にあります。一般的に5/5スタッツのミニオンは5マナの召喚コストに相当しますが、Crystal Rogueはたったの1マナコストでもボードに置くことが出来るわけです。低コストで強大なミニオンを召喚できるという報酬と、クエスト条件を達成するためのカード達の役割が噛み合った結果、このデッキは大量の低コストミニオンを詰め込んだ異様な構築へと至りました。
現在このデッキは可能な限り素早くクエストを達成することを意図して設計されており、5ターン目から8ターン目までには5/5ミニオン軍団を展開して相手を蹂躙しています。今回のカード調整はこのクエスト達成の難易度を大きく向上させるものであり、以下に挙げる構築要素と密接に関連しています。
◆ バウンサー
30枚のデッキに2枚までしか同じカードが入れられないゲームの基本ルールを鑑みれば不可能に思えるクエスト条件、これを可能とするのがミニオンを再び召喚できるように役立てるカード達、いわゆるバウンサー(bouncer)です。用心棒ではありません。文字通りミニオンを手札へとバウンス(跳ね返らせる)させる役割を持つカードはこのデッキにおいて最も重要な存在です。
「同じ名前のミニオンを4体手札から使用する」という条件を満たす方法として、デッキに含まれるミニオンのいずれかをこのバウンサー達によって手札へと戻す行動がCrystal Rogueのプレイングにおいて基軸となります。このバウンス対象は幅広く考えられ、対戦相手のクラスやボードの状況に応じて幾らでも判断が変化するために、Crystal Rogueをプレイ難易度の高いデッキたらしめているものです。
◆ 複製
同じミニオンを複数プレイするもうひとつの手段がミニオンの複製です。クラス専用カードの《擬態の卵 / Mimic Pod》はドローしたカードを1枚複製することでバウンサーと同様に機能するものの、カードドローのRNGに依存します。
確実な手段としてプレイヤーから信頼されているのは《火成のエレメンタル / Igneous Elemental》によってTokenミニオンを2枚取得する方法です。このTokenミニオンは《ファイアフライ / Fire Fly》の生成するTokenミニオンと共通しており、あとはバウンサーが1枚あればクエスト条件に足りるという非常に有益なカードです。
◆ 4体から5体への増加
たった1の違いですがこのカード調整は《地底の大洞窟 / The Caverns Below》を魔素へと変えることをプレイヤー達に決断させるほど致命的な変更です。ちなみに救済措置としてバランス調整パッチが適用されてから2週間前後はカードの作成所要量と同じだけ魔素がリファンドされます。
条件が4体から5体へ増加するということは、あるカードをバウンス対象とした場合4体のバウンサーが必要です。これまで3体のバウンサーで済んでいたところが4体必要になることは、単純に計算すれば33%の手間が増加することになります。
今後Rogueのクエスト達成タイミングが遅れることは必然であり、ドローに恵まれなければクエスト達成そのものが覚束ない可能性も高まります。このデッキの将来については「バウンサー」と「複製」の要素がどのように扱われるかという開発チームのさじ加減次第なのですが、少なくとも現行のメタゲームにおいて通用するデッキではなくなってしまうという点でプレイヤー達の見解は一致しています。
もとから不得手であったAggroは絶望的になり、やや不利な相性のTempo・Midrangeデッキは強敵と化し、獲物にしていたControlデッキには時間的な猶予を与えてしまう。さらばCrystal Rogue。もしかしたらBen Brodeのきまぐれや思いつきで復活する日が来るかもしれないと淡い期待を胸に秘め、しめやかに別れを告げる時です。
Crystal Rogueの消失した環境
もうひとつの本題はCrystal Rogueがプレイされなくなった環境におけるメタゲームの変化です。全体の7%~9%の割合を占めるほどプレイされていたデッキがすっぽ抜けるという数字上のインパクト以上に、メタゲームへと大きな影響がもたらされるバランス調整となるはずです。Crystal Rogueのマッチアップ勝率をいま一度引用しましょう。
参照: vS Data Reaper Report #54 [Vicious Syndicate]
ダイレクトな影響を受けるのはCrystal Rogueと極端な相性差を持つデッキ達です。Jade DruidやControl系のデッキをプレイする上で、今後Crystal Rogueという懸念が消失すればプレイヤー数を増加させる十分な理由になります。ネガティブな変化が起きるのは幾つかのアグレッシブなデッキ達、とりわけフリーウィンに近い相性のToken DruidとPirate Warriorの魅力を損ないかねません。
そしてこのプレイ比率の変動は更なる変化へ波及していくでしょう。Jade DruidやTaunt Warrior、またはPriestクラスのデッキが素直にプレイヤー数を伸ばしていった場合、これらに好相性のMurloc & Midrange Paladinが支配的な存在へと変貌する可能性があります。両デッキはToken DruidやPirate Warriorとの相性が芳しくありませんが、Crystal Rogueの消失に伴ってAggroが減少していけばPaladinをさらに後押しする格好となります。
それではPaladin旋風が吹き荒れた4月下旬へと時計の針は巻き戻るのでしょうか。Token Shamanが存在しその他のデッキ達も構築が練られた現在では簡単に推し量ることはできません。新たな拡張版の発表を控えた今、ウンゴロ環境は最後の生存競争へと突入していきます。