6月シーズン開始から一週間が経過しました。お楽しみのVicious Syndicateによるメタリポートの更新は木曜深夜1時(金曜AM1時)となりますので、新シーズン初週の流行についてはこの記事で特に触れません。今回の記事は次のメタブレイカーを期待されているEvolve Token Shamanにスポットをあてたいと思います。
デッキリストサンプル:
デッキコード:
Standard
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-1 Devolve
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haHAA
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参照リンク:
Standard Token Evolve Shaman [Vicious Syndicate]
[GUIDE] 5 - Legend Evolve Shaman Metabreaker [CompetitiveHS]
Evolve/Dopplegangster Shaman Testing and Analysis [CompetitiveHS]
Evolve Token Shaman
今回とりあげるのは注目のShamanデッキ、「Evolve Token Shaman(進化トークンシャーマン)」です。この原型であるToken Shamanは4月シーズン終盤から急激に流行し、メタゲームをかき回す新たな潮流となりました。直近のトーナメントではJadeデッキやElemental Shamanの活躍も目立ち、もしかするとShamanクラスそのものが見過ごされてきたウンゴロ環境のダークホースなのかもしれません。
さて、お題に定めたこのShamanデッキはデッキ構成の要件について前置きが必要であろうと思われます。デッキ名を眺めるだけでも複数の要素が組み合わされたデッキであるとイメージできるでしょう。まずToken Shamanそのものはスタンダードフォーマット導入前のNaxxが存在したころから試されてきたデッキです。強烈なフィニッシャーとなる《血の渇き / Bloodlust》を活かすアイデアがその根幹にありますが、過去3年間を通じてみてもメジャーなデッキとして成功を収めたとは言い難いものです。
この理由としては、過去のカード追加がトーテム/Totem種族やオーバーロード/Overload、そして呪文ダメージ/Spell Damageのシナジーにフォーカスしていたことが要因と考えられます。また単純に、《トンネル・トログ / Tunnel Trogg》や《トーテム・ゴーレム / Totem Golem》・《タスカーのトーテム師 / Tuskarr Totemic》など優秀なミニオンの存在も大きかったことでしょう。そして《呪われた蜘蛛 / Haunted Creeper》や《ネルビアンの卵 / Nerubian Egg》がスタンダード落ちしたクラーケン年以降は、Token Shamanというアーキタイプそのものが終息を迎えました。
これら過去の追加カードの影響によって、Aggro ShamanやMidrange Shamanがこのクラスのメジャーデッキへとなるべくして成ったものです。そして時は過ぎマンモス年。カードローテーションを経て再びShamanはゲーム最序盤のミニオンドロップにクラス中立ミニオンを起用せざるを得ない状況にあります。かてて加えてウンゴロ拡張版では新しくエレメンタル/Elementalの種族シナジーが追加され、さらに拡張版の目玉であるクエストカードがマーロック/Murlocミニオンの召喚という条件が設定されていたこともあり、現在Token Shamanで活用されているギミックが5月に至るまで見落とされてきたのもむべなるかなというものです。
◆ スノーボール
ターンを追う毎に盤面の脅威を膨らませていくことを、ハースストーンコミュニティでは「スノーボール」と好んで表現されます。降り積もった雪の上で雪玉を転がしていくイメージそのままに、盤面のミニオン達をアビリティやスペル、シナジーを利用してどんどんと膨らませていくのはこのゲームの基本戦術です。
このスノーボールを始めるには雪玉を作り始める起点が必要です。これは基本的にゲーム最序盤のボード確保であり、スノーボールという基礎こそ定石なハースストーンにおいて、最古の時代からクラスバランスを決定付けるひとつの焦点でもあります。
この考え方を理解するひとつの例を挙げますと、たとえば昨年の旧神環境ではMidrange Hunterのデッキに《終末予言者 / Doomsayer》が採用されていました。誰の目にも明らかにMidrange Hunterというデッキコンセプトにそぐわないミニオンが加えられた理由は何だったのでしょうか。
それは当時支配的なShamanやWarriorに対して、どうしてもHunterが最序盤のボードを安定して確保できない状況を打破するために、無理やりボードリセットしてスノーボールの起点を作り出すという苦肉の方策だったのです。もちろん《野良猫 / Alleycat》・《やさしいおばあちゃん / Kindly Grandmother》・《放電レイザーモー / Crackling Razormaw》を手に入れた今となっては、再びMidrange Hunterが《終末予言者 / Doomsayer》を採用する理由など一片もありません。
話を戻しまして先述のように優秀なクラス専用ミニオンを失ったShamanでしたが、カラザンの《メイルシュトロームのポータル / Maelstrom Portal》やガジェッツァンの《翡翠の爪 / Jade Claws》が補強することによっていまだ他のクラスと対抗することが可能です。
そしてボード上に置いていくのは低コストなミニオン、それも継続的にボードへとミニオンを供給し続けることが現在のToken Shamanの戦術です。チープなミニオンはトレードに不利なものですが、Shamanにはこのトレードを有利に変える《炎の舌のトーテム / Flametongue Totem》があります。そしてやはり爆発的なダメージを発生させる《血の渇き / Bloodlust》の存在もあり、目に見えている以上の潜在的な脅威が相手に大きなプレッシャーを与えます。
5月シーズンのメタゲームにおいて虚を突くようなToken Shamanの戦術はピタリとはまり、Shamanクラスのプレイヤー数を倍増させるほどの流行へと発展しました。そしてこの過程において、デッキリストも様々なプレイヤーによって瞬く間に洗練されていったのです。
◆ ボードフラッド
Evolve Token Shaman(またはただのToken Shaman)は一般的にAggroデッキに分類されます。ただし《海賊パッチーズ / Patches the Pirate》以外の突撃/Chargeミニオンは基本的に採用されません。このデッキのスタイルはボードへミニオンを溢れ(フラッド)させるという点でZoo Warlockに類似しており、盤面に自分のミニオンがポジションを取ることを重視しています。
Aggroデッキにおけるこうしたプレイスタイルは特に”board flood ”と表現され、対極的なFace Hunterとは明確に区別されています。Face Hunterの突撃/Chargeミニオン達は召喚して相手の顔を一回殴ればマナコスト分の仕事を果たしたことになりますが、ボードフラッドスタイルのAggroデッキにおいてミニオンは次の展開への橋頭堡として盤面に残すことが重視されます。
2マナで1/2ミニオンを2体設置できる《ファイアフライ / Fire Fly》、毎ターン1/1のTokenを生産する《原始フィン / Primalfin》、1マナで相手の武器耐久減少と《海賊パッチーズ / Patches the Pirate》射出を兼ねる《ブラッドセイルの海賊 / Bloodsail Corsair》、これらすべてはスノーボールの起点となるものであり、 ボードフラッドによってプレッシャーを仕掛けるタイミングを見計らうのがToken Shamanの戦術です。
デッキの性格はアグレッシブでありながら《ストーンヒルの守護者 / Stonehill Defender》が採用されているのは、カード補充という目的以外にこうしたチープなミニオン達を保護する目的もあります。
◆ 進化と退化
Token Shaman - Standard Meta Snapshot [TempoStorm]
Deck guide: Token Shaman, the new deck to beat. [CompetitiveHS]
Token Shaman流行の兆しが見られた頃のデッキリストは上記のような構成となっていました。デッキのコアに大きな変化は無く、Tokenをボードに発生させることのシナジーとTokenの活用法に着目されていたことが窺えます。除去とToken召喚がセットになった翡翠蓮のカード(いわゆるJadeパッケージ)は当初から組み込まれていましたが、ここへ新たな要素が加わりデッキは更なる進化を遂げました。それが《進化 / Evolve》・《退化 / Devolve》・《ドッペルギャングスター / Doppelgangster》の3枚です。
旧神拡張版で追加された《進化 / Evolve》は《進化を統べるもの / Master of Evolution》とセットでEvolve Shamanという構築スタイルを築き上げています。ミニオンをアップグレードするという効果はチープなTokenを並べるToken Shamanにはうってつけであり、さらに《ドッペルギャングスター / Doppelgangster》との組み合わせによって爆発的にボードの脅威を膨張させることを可能とします。
そして《退化 / Devolve》は処理が難しいミニオンの排除、例えば序盤の《終末予言者 / Doomsayer》への対策となり、シナジーを活かして低コストなミニオンをパンプアップさせるToken DruidやMurloc Paladinへの適切なカウンターとなり、挑発/Tauntミニオンの壁を消去してフィニッシュブローを叩き込むための除去としても機能します。
このギミックを取り入れたことで完成したEvolve Token Shamanは統計において平均勝率53%という素晴らしい成果をあげ、ウンゴロ環境の不人気ヒーローという悪評を払拭するほど活躍しているのです。
マリガンとプレイTips、参考プレイ動画
常にキープ
これまで念を押してきたように、このデッキはゲーム最序盤のボードへミニオンを置くことを重視しています。どんなに貧弱であれトレード材料となりますし、《炎の舌のトーテム / Flametongue Totem》で有利なトレードを行う足掛かりになるからです。チープなTokenを手札に加える上にヘルス2と優秀な《ファイアフライ / Fire Fly》は当然として、たとえ相手が武器使用クラスでなかろうと《ブラッドセイルの海賊 / Bloodsail Corsair》もマストキープになります。相手の序盤ミニオンを潰しつつTokenを置きJadeカウントを進める《翡翠の爪 / Jade Claws》も手放せません。
仮にこれらのカードが初手の候補に無かった場合、次点候補とマッチアップ相手のデッキを勘案しつつハードマリガンで探しにいく必要があります。次点候補がマッチアップ相手に有効ではないと予想できるならば、上記3体のミニオンを探すため大胆にマリガンしましょう。
遅いデッキに対する《翡翠の爪 / Jade Claws》は、相手の序盤に排除しなければならない標的がいるかを想定すべきでしょう。Priestに対しては有益なカードですが、Jade Druidに対しては他のミニオンによるプレッシャーがより効果的です。
次点候補
次点候補も序盤からのボード確保とスノーボールに有益なカード達です。ただしこれらのミニオンをマリガンで残すことは、全てのデッキ相手に適切であるとは言えません。序盤に同じくチープなミニオンを置くデッキ達、Token DruidやHunter、PaladinにPirate Warriorが想定されるなら《メイルシュトロームのポータル / Maelstrom Portal》は2ターン目のボードスイングとして素晴らしく機能します。
ヘルス3の序盤ミニオンが多いMageやPriest、除去に貧弱なQuest Rogue、そしてShaman同士のミラーマッチでは《炎の舌のトーテム / Flametongue Totem》が役立つでしょう。無論のことbuff効果を活かすには事前のミニオンドロップが必要です。
悩ましいのが《原始フィンのトーテム / Primalfin Totem》です。本来マストキープとしたいミニオンであるものの、相手が最序盤にミニオンドロップしていたら無防備に晒されてしまいます。1ターン目にドロップできるミニオンを確保できているか、相手が序盤からボードを競ってくるだろうかを予想した上で判断しましょう。
シチュエーショナル
状況に応じてキープするカード、避けるべきカードについても頭にいれておくべきでしょう。ここで解説する内容はメタゲームに大きく依存する点に注意してください。
まず《退化 / Devolve》についてはToken DruidやMurloc Paladin、Silence Priestなどのマッチアップで強烈なカウンターとなります。ただし盤面のミニオンを弱体するだけなので、やはりボード争いに注力すべくマストキープのカードを探すことが優先されるのに変わりません。
たとえばAggro Token Druidと頻繁にマッチングする現在において、マストキープの低コストミニオンと共に《進化 / Evolve》を残すことは効果的です。《進化 / Evolve》は《ドッペルギャングスター / Doppelgangster》とセットで使うだけのカードではありません。最序盤に1マナのミニオン複数体を2マナへアップグレードすることは、Token Druidとの序盤争いを有利に変えてくれます。
このマッチアップで気をつけるべきは海賊/Pirateミニオンを《ゴラッカ・クローラー / Golakka Crawler》に捕食されることですが、《進化 / Evolve》と《ブラッドセイルの海賊 / Bloodsail Corsair》を同時にキープできればカウンターをケアしながら有利なボードを築くことができます。
しかし何らかの理由で相手がJade Druidであることが判明しているならば、《原始フィンのトーテム / Primalfin Totem》の優先順位が他を上回ります。《自然の怒り / Wrath》以外の対処法が無いので《なぎ払い / Swipe》のマナ帯まで安定してボードを拡張することができるからです。
翻ってMidrange Hunterとマッチングした場合、《原始フィンのトーテム / Primalfin Totem》はキープしてはいけないカードになります。この対戦はボードの主導権争いに集約されており、《翡翠の爪 / Jade Claws》が是が非でも必要になるでしょう。Hunterのターン開始時点にミニオンを残していない状況を継続できれば有利になりますが、《猟犬を放て! / Unleash the Hounds》のケアも常に念頭に置きます。
マリガンの基本は上記のように、予想される相手の構築と噛み合う序盤のカードが優先されます。そして初手の内容次第ではありますが、Mageにたいしてのみ《ドッペルギャングスター / Doppelgangster》のキープを考える可能性があります。Secret Mageの《鏡の住民 / Mirror Entity》を回避しつつミッドゲーム帯に強力な圧力を加えられるというのがその理由ですが、1ターン目からの動きが出来ない手札の内容ならば入れ替えるべきでしょう。
最後に《マナの潮のトーテム / Mana Tide Totem》のキープはPriestやShaman同士のマッチアップのみ考慮されます。
ミニオンのボード配置
《炎の舌のトーテム / Flametongue Totem》を最大限活かすためにはミニオンの設置ポジションについても意識しなければなりません。ヘルスの多いミニオンやトレード要員にしたくない《マナの潮のトーテム / Mana Tide Totem》などはボードの左端、貧弱なミニオンほど右手に置くのが基本です。
ヒーロパワーのトーテム/Totem、《メイルシュトロームのポータル / Maelstrom Portal》や《翡翠の稲妻 / Jade Lightning》による召喚は常にボード右端に召喚され、《原始フィンのトーテム / Primalfin Totem》と《アヤ・ブラックポー / Aya Blackpaw》はミニオンの右隣に配置されます。
《進化 / Evolve》の適切な使用
《ドッペルギャングスター / Doppelgangster》の召喚に《進化 / Evolve》を合わせると6マナのランダムなミニオンが3体ボードに出現します。6マナ帯でのこの動きはやはり非常に強烈ですが、マリガンの項でも触れたようにこのカード達は必ずしもセットで使うとは限りません。
変身したミニオンはその前の姿が何であれ、あるいはどのようなエフェクトが付与されていようとも新しいミニオンに生まれ変わります。この性質はミニオンのデメリットを消去したり、ミニオンの減少したヘルスをリカバーするのとほぼ同様です。たった1マナであること、そしてデッキには複数体のミニオンを安価に召喚するギミックが含まれていることを鑑みて、対戦相手のデッキに対して適切な使用を見極められれば《進化 / Evolve》というカードの利便性が見えてくるでしょう。
まず、早いデッキ同士のマッチアップではボード争いのツールとして早い段階での使用を考慮します。アグレッシブなデッキに対して悠長に《ドッペルギャングスター / Doppelgangster》とのコンボを待っていたならば、おそらくテンポをひっくり返すことは難しいでしょう。
遅いデッキに対しては上記のコンビネーションがもちろん効果的です。この場合は相手が取り得る除去の可能性を想定し、使い所を適切に判断します。《乱闘 / Brawl》を持つControl Warriroに対してボードを拡張しすぎる(over extend)のは自殺行為になりかねず、逆に《乱闘 / Brawl》のような除去のあとにボードを埋め直す(refill)としてはうってつけです。
参考プレイ動画