世間では興奮のあまり語彙を失うという現象が流行っております。すごい、なんかすごい、みたいな。しかしわれらのウーサー・ライトブリンガー氏はすでに人語すら介さない有様です。マーロック語しか喋れなくなるほど”怒り”の感情が今のパラディンを支えています。
思い返せば、このクラスが競技的なシーンやラダーから身を潜めて久しいものです。かつてSecret Paladinで頂点を極めた王者の面影はどこへやら。前回のガジェッツァン拡張版は負け組ギャングに所属したことがアダとなり、路端の浮浪者のようにレクサーと肩を寄せ合いながら海賊の影に怯える日々を送っていました。そして時は流れマンモス年、新拡張パックの大魔境ウンゴロがこのクラスに逆襲のチャンスを与えています。
手を差し伸べたのはマーロックです。手なのかヒレなのか知りませんが、序盤から中盤にかけてミニオン展開力に欠けていたPaladinはマーロック軍団と手を組み、往年のMidrangeとAggroの構築スタイルを復活させています。今回の記事はウンゴロ環境で台風の目となる可能性を指摘されるMurloc Paladinについて注目していきましょう。
ウンゴロ環境のメタリポート
参照リンク:vS Data Reaper Report #44 [Vicious Syndicate]
予告されていたVicious Syndicateのウンゴロ環境メタリポートが20日に公開されました。戦績管理ツール等を利用する協力者から募ったデータの集積には、リリースから数日にかけてRogueとWarriorがこの新環境を牽引する第一走者となり、行方不明になっていたはずのHunterがその後を追随していたことがまざまざと表れています。
新環境でロケットスタートを切ったRogueのデッキは言うまでもなくQuest Rogue(Crystal Rogue)です。事前の予想を裏切るかたちとなり、このデッキはレジェンドレアのスペルを基に構築されるクエスト系デッキの中で最大の成功を収めました。このQuest Rogue大流行から一拍遅れ、国内プレイヤーのcross選手などエキスパートプレイヤー達がMiracle Rogueを再構成し結果を残しています。
Rogueと双璧の人気を誇るWarriorも新カード《ファイアプルームの中心で / Fire Plume's Heart》によってクエストデッキを構築し、いま現在のメタゲームに大きな存在感を確立しました。こちらは旧来のControl Warriorのデッキ構成とクエスト達成条件である挑発/Tauntミニオンが見事に融和し、長年に渡って挑戦し続けてきたTaunt Warriorというアーキタイプをついに実現させたものとなります。
そして言うまでもなく、超攻撃的なAggroデッキの代表格であるPirate Warriorは前環境からそのままの脅威を保っています。マンモス年のカードローテーションをほぼ無傷で乗り越えたことに加え、このアグレッシブなデッキはウンゴロ環境のデッキの多くに対して優位を勝ち取ることが要因です。とりわけ人気トップのQuest Rogueに対するベストカウンターとして機能することは、このデッキの凶悪さを改めて際立たせていました。
RogueとWarriorを追い上げるHunterはまさしくウンゴロ環境のダークホースと言える存在です。このクラスがまともにプレイされているのはカラザン環境のSecret Hunter以来となるでしょう。新カードによって補強されたMidrange Hunterはいま現在のマッチアップにおいて最もバランスに優れた存在であり、Elemental Shamanを除くほとんどのデッキに対等以上に戦える立ち位置にあります。
ウンゴロ環境の最初のシーズンはこのビッグ3が飛び抜けているものの、他クラスのクエストデッキやFreeze Mageを筆頭とするリファインされた旧デッキの一団が眼下へ迫っており、今後のメタゲームはまだまだ変化していく余地を残しているようです。
◆ メタブレイカーを期待されるPaladinクラス
さて、今回とりあげるPaladinのデッキは現環境のビッグ3を追い上げる立場にあります。このクラスに与えられたレジェンドスペル「《最後のカレイドサウルス / The Last Kaleidosaur》」はやや魅力に欠けていたものか、残念ながらウンゴロリリースからほとんど顧みられていません。そのほかクラス独自のギミックも特別に注目を集めることはなく、ウンゴロリリース直後は最も低い位置からの発進となりました。前環境での体たらくを考えれば、プレイヤー達の期待度が低かったことも無理からぬことでしょう。
ウンゴロが解禁されプレイヤー達が新しいデッキへの挑戦に沸き返る中で、Midrange Paladinは高い勝率を叩き出しその存在感を徐々に示し始めました。現環境での有効性を証明されたそのデッキはマーロック/Murlocミニオンのシナジーを取り入れたデッキ構成と、新たに追加された挑発/Tauntアビリティのミニオンによる粘り強い展開のふたつのバージョンに分かれており、そのどちらも現在プレイされているデッキ達に対して非常にバランス良く高い勝率を保っています。
一方、Murloc Paladinと呼ばれるデッキはミニオン戦力を九分九厘マーロック/Murloc種族に依存したよりアグレッシブな構成となっており、あの凶悪なPirate Warriorすらねじ伏せるパワーとクエスト系デッキが本領を発揮するよりも早く押し切ってしまうスピードを兼ね備えています。
統計上の勝率では実際に環境トップのPirate Warriorに次ぐ位置につけており、あとはプレイヤー人数を増やしていくことでRogueとWarriorが作り上げたウンゴロ環境最初のメタゲームを塗り替える存在になるでしょう。
参照リンク:vS Data Reaper Report #44 [Vicious Syndicate]
◆ なぜマーロックおじさんになってしまったのか?
ここで疑問がひとつ、なぜPaladinクラスはマーロック/Murloc種族のシナジーを取り入れたのでしょうか。クラス専用ミニオンではボード争いに勝てないことがその理由です。またその理由こそが、前環境で海賊軍団に脅かされまったく活躍できなかった要因でもあります。
Goblins vs Gnomes(GVG)拡張版には序盤から中盤にかけて非常に競争力の高いカードが存在し、かつてのMidrange Paladin最盛期を支えていました。クラーケン年が始まって以降はこのようなクラス専用カードに恵まれず、否応なしにControlへと振り切った構築を行うしかなかったのです。
実際のところこの状況はまだ改善していませんが、序盤から中盤にかけてのミニオン展開という穴を埋める存在となったのがマーロック/Murloc種族のミニオンとそのシナジーです。旧神拡張版の《バイルフィンの異端審問官 / Vilefin Inquisitor》、ガジェッツァンの《グリムスケイルのダチ公 / Grimscale Chum》などこれまで追加されてきたマーロック/Murlocのパーツ、そして大魔境ウンゴロの追加カードが揃ったことにより、ついにパズルのピースが隙間なく埋まる運びとなりました。
クラス専用の新マーロック《水文学者 / Hydrologist》は発見によって状況に合わせた秘策/Secretを取得できる優れた汎用性を持ちます。とりわけ《マーロックの戦隊長 / Murloc Warleader》など狙われやすいキーカードを再取得する《高飛びコドー / Getaway Kodo》、Freeze Mageに対して突き刺さる《目には目を / Eye for an Eye》のようなニッチな選択が可能となるのも発見/Discoverの長所と言えます。
そしてクラス中立ミニオンの《ロックプール・ハンター / Rockpool Hunter》。リリース前はパッとしない印象でしたが、1ターン目のマーロック/Murlocにbuffを与える効果はゲーム最序盤のボード争いに大きな優位をもたらします。数値はやや見劣りするものの、1・2ターンのこのマーロックプレイは前環境までの《トンネル・トログ / Tunnel Trogg》・《トーテム・ゴーレム / Totem Golem》に匹敵し、かつオーバーロード/Overloadのようなデメリットもありません。
アグレッシブなMurloc Paladinのデッキでは数少ないマーロック/Murloc種族以外のミニオンである《温厚なメガサウルス / Gentle Megasaur》。この新カードは発表段階からマーロック/Murlocへの強力なアビリティが注目されており、序盤からマーロック/Murlocミニオンによってボードを確保していれば実に有効に機能することが証明されています。こちらもまた能力を選択できる適応/Adaptという新キーワードアビリティの汎用性が光ります。
Midrange (Murloc) Paladinのデッキリスト
それではデッキ内容をもう少し詳しくチェックしていきましょう。まずマーロック/Murloc種族ミニオンのシナジーを取り入れたMidrange Paladinの目的は《バイルフィンの異端審問官 / Vilefin Inquisitor》で変更したマーロックTokenミニオンの価値を高めること、そして先に挙げたようにボードを争いプレッシャーを相手に与えることが主な戦略です。
ただし後述のMurloc (Aggro) Paladinのようにミニオンシナジーで相手を圧倒するためのデッキではなく、《平等 / Equality》などのボードクリアや《光の王ラグナロス / Ragnaros, Lightlord》などヘルス回復のカードも採用されており、バリューゲームも戦えるややコントロール寄り(Control-ish)な性格のデッキとなっています。
リリース当初はほとんどの人々がPaladinに目もくれませんでしたが、メタ外からのアプローチを試みるひねくれたプレイヤーのTidesofTimeが先駆けとなり、この新しいMidrange Paladinの挑戦がプレイヤー達に受け入れられていきました。アグレッシブなPirate WarriorとQuest Warriorのどちらに対しても優位に立てるデッキは今のところMidrange Paladinしか存在しないかもしれません。
◆ デッキ参照リンク
Tidesoftime’s Un’Goro Murloc Midrange Paladin (April 2017, Season 37) [TOP DECKS]
Tidesoftime’s Murloc Midrange Paladin [Twitter]
Machamp's Un'Goro Midrange Murloc Paladin - #1 Legend [TOP DECKS]
Un’Goro Midrange Paladin Murloc Deck List Guide (April 2017, Standard) – Season 37 [TOP DECKS]
Murloc (Aggro) Paladinのデッキリスト
最後にMurloc Paladinのデッキリストを見ていきましょう。こちらは魚臭くて息苦しいほどにマーロック/Murloc種族を詰め込んだ構成となっており、この種族とシナジーの性格上きわめてアグレッシブな性格のデッキとなっています。そのプレイスタイルはWarlock Zooに酷似しており、カラザン以前からZooを愛用していたプレイヤーならば初見でも使いこなすことができるでしょう。個人的にもいま現在ラダーにおいて最も勧められるデッキです。
もちろんPaladinにはWarlockのようなカードを引くヒーローパワーがありません。その役割を担うのは1マナミニオンを補充する《三下集合 / Small-Time Recruits》、手札が少ないほど強力な《神聖なる恩寵 / Divine Favor》、そして《水文学者 / Hydrologist》から引き当てる《高飛びコドー / Getaway Kodo》。これらのカード補充手段によって相手を押し切るのに十分な燃料を確保できます。
戦略の要はボードを確保することによって種族シナジーの利益を獲得し、さらにボードを雪だるま式に膨らませていくことにあります。《マーロックの戦隊長 / Murloc Warleader》や追加カードの《ロックプール・ハンター / Rockpool Hunter》のbuffが有利なトレードを実現し、相手のボードを封殺しながらスノーボールしていくというまさにWarlock Zooそのままのプレイがこのデッキのスタイルです。
デッキに採用されるカードのほとんどは幾つかのバリエーションにおいて共通していますが、3マナカードの選択にはプレイヤーそれぞれの異なる味付けが見られます。カードを得るもののコストに比べてやや貧弱な《原始フィンの見張り番 / Primalfin Lookout》、種族シナジーを持たないがヘルス1のミニオン量産で高い価値を生む《ダークシャイアの管理官 / Steward of Darkshire》、ミニオンの保護とカードバリューに長ける《ストーンヒルの守護者 / Stonehill Defender》などなど、単に種族シナジーで前のめりにゴリ押しするだけではない柔軟性も特徴かもしれません。
ゲーム中盤以降の《太陽の番人タリム / Sunkeeper Tarim》は一見このデッキにそぐわないようですが、相手のタフな挑発/Tauntを潰すこと、そして1/1Tokenを強化する2つの役割においてベストなカード選択となります。
◆ ShamanではなくPaladinを選ぶ理由
このデッキをプレイする上で、ShamanでMurlocデッキをプレイすべきではないかと疑問を覚えるかと思います。なにせShamanには《マーロック大連合 / Unite the Murlocs》という有益なクエストカードが追加されており、使用されるミニオンの多くはクラス中立であるためPaladinと極端な違いはありません。
その上で敢えてMurloc Palaldinが人気を集めているのは、細部における違いこそが二つの似たようなデッキの勝率を大きく分けているようです。あるいは、1ターン目にクエストカードを使用することがMurloc Shamanにとって致命的と言うべきかもしれません。
比較してPaladinにはクラス専用の《バイルフィンの異端審問官 / Vilefin Inquisitor》・《グリムスケイルのダチ公 / Grimscale Chum》・クラス中立の《グリムスケイルの託宣師 / Grimscale Oracle》と3体もの1マナドロップが存在し、先述の《ロックプール・ハンター / Rockpool Hunter》によるコンビネーションの確率を高めています。
◆ デッキ参照リンク
NA #3 Legend Murloc Aggro (Advanced Guide) [redditHS]
Rank #1 Legend EU - Aggro Murloc Paladin [Hearthpwn]
Vlps’ Aggro Murloc Paladin (April 2017, Season 37) [TOP DECKS]