本日未明にハースストーン公式から次期バランス調整の内容が発表されました。例年通りBlizzCon開催前のこの時期にカードバランスの見直しが図られることとなり、世界大会本戦および残り3ヶ月となった今年のメタゲームに与える影響が注目されます。
重点事項:
バランス調整の対象となったカードを分解する際は、補償としてカード作成に必要な分量と同じ魔素(Arcane dust)が還元されます。この補償は期間限定であり、アップデート実施後から通常2週間程度となります。
なおカード調整のアップデート時期については、10月8日より開催されるハースストーン選手権ツアーの最終選抜大会前に実施を予定されています。アップデート実施前の現在に、バランス調整対象となったカードを分解しても魔素は全額還元されないのでご注意ください。
公式サイトリンク:
次回のバランス調整 – アップデート 6.1.3 [Battle.net]
Upcoming Balance Changes - Update 6.1.3 [Battle.net]
調整対象のカード
本日発表されたカード調整の内容に対してコミュニティからは好意的な反応が数多く見られます。旧来このゲームでnerf(弱体調整)されるカード達のほとんどは使用に耐えないパワーレベルまで引き下げられ、美しい記憶とともにNerf Heavenへと昇天していくのが常でした。しかし今回行われるバランス調整はカードの抱える問題点に対処しつつ、その後もデッキの中で存在し続ける可能性を残していると評価されています。
また一部では、《突撃 / Charge》が1マナになったことでOTK(1ターンキル)とは異なるプレイスタイルでの使用を模索することが可能となり、Patron Warriorなど過去のデッキが復活する可能性にプレイヤー達は興奮をあらわにしています。
シャーマン / Shaman
《岩穿ちの武器 / Rockbiter Weapon》
調整内容:マナコストが1上昇
魔素(Arcane dust) 還元量: 分解不可
Shamanクラスを象徴するカードのひとつにまで踏み込んで大胆な調整を行うとは、多くのプレイヤーにとって予想外のものだったでしょう。公式ブログにも書かれているとおり、このカードはShamanが爆発的なダメージを叩き出すために重要なコンボピースのひとつです。このコストが2へ上昇した影響により、アグレッシブなデッキが《ドゥームハンマー / Doomhammer》+《岩穿ちの武器 / Rockbiter Weapon》のコンボを行う上でマナコストの制約が重くのしかかるようになります。
もちろんミニオンに付与する場合もコスト2という数字は見た目以上に負担となります。《風の王アラキア / Al'Akir the Windlord》とのコンビネーションでは召喚したターンには1枚しか付与できず、以前のターンにオーバーロード/Overloadを1マナ分でも発生させていたら同時に使用することはできなくなります。特にMidrangeデッキでは《風の王アラキア / Al'Akir the Windlord》がこの調整で大きくワリをくうため、Loyanが《炎の王ラグナロス / Ragnaros the Firelord》へ入れ替えているようなレイトゲームミニオン選択の幅は広がるのかもしれません。
なお《岩穿ちの武器 / Rockbiter Weapon》はコンボカードとしてだけではなく、ゲーム序盤の除去カードとしてもきわめて重要な存在です。たった1マナで敵ミニオンを除去しテンポを奪い取る優位は失いましたが、2マナになったことで除去カードとしての役割を期待されないわけではありません。Druidの《自然の怒り / Wrath》、Mageの《フロストボルト / Frostbolt》、Warlockにかつて存在した《闇爆弾 / Darkbomb》など、2マナで3点ダメージ除去のカードはデッキに自動的に組み込まれるほど汎用性が高いものだからです。
《岩穿ちの武器 / Rockbiter Weapon》をミニオン除去として見た場合、ヒーローの体力か自身のミニオンを犠牲にしなければならず、さらに呪文ダメージ/Spell Damage+の恩恵を受けることもできません。挑発/Tauntの壁に阻まれてしまう点を考えても、除去としては《ライトニングボルト / Lightning Bolt》に見劣りする性能となってしまいました。もっと単体除去が必要というなら《ストームクラック / Stormcrack》すでに存在します。しかしShamanクラスを象徴するアビリティの疾風/Windfuryと強力なコンビネーションを可能とする付加価値が評価されるならば、このカードはShamanのデッキで現役であり続ける可能性が残されているはずです。
《タスカーのトーテム師 / Tuskarr Totemic》
調整内容:基本のトーテムしか召喚しなくなる
魔素(Arcane dust) 還元量: 40/400(Golden)
このカードの能力はこれまで《トーテム・ゴーレム / Totem Golem》・《炎の舌のトーテム / Flametongue Totem》・《マナの潮のトーテム / Mana Tide Totem》の3種が出現する可能性がありました。7分の3の確率で3マナ以上の価値を生みだすカードであったことを鑑みれば今回のカード調整は妥当なものでしょう。
今後はヒーローパワーで召喚されるトーテム/Totemしか出現しないことで、このカード自体のパワーレベルは確実に低下しました。この調整はトーテム/Totemの種族シナジーを特徴とするデッキにおいて《タスカーのトーテム師 / Tuskarr Totemic》が使用されることを意図したものであることは公式ブログでも語られています。その目論見どおりに今後、Aggroデッキにおいて3マナの異なる選択肢が考えられるようになるかもしれません。一方でMidrangeやControlなどヒーローパワーを使用する機会の多いデッキにおいては、《地底よりのもの / Thing from Below》とのシナジーが強力なので今後も採用され続けると見込まれます。もちろん、次期拡張版でより魅力的な3マナミニオンが登場するならば選択の幅が広がるでしょう。
ハンター / Hunter
《荒野の呼び声 / Call of the Wild》
調整内容:マナコストが1上昇
魔素(Arcane dust) 還元量: 400/1600(Golden)
突撃/Charge・ミニオンへのbuff・挑発/Tauntをたった1枚のカードでボード上に発生させるこのカードはやはり、8マナコストとしては強力すぎるものでした。対戦のゲームバランスはカード1枚で左右されるものではないとしても、あまりに強力なカードが高い汎用性を持つならデッキ構築の選択肢を狭めてしまいます。
旧神のささやき(OldGods)拡張版の実装以降、Hunterクラスの構築はどれもが似通ったものとなりました。どのデッキも1マナのドロップから始まり《荒野の呼び声 / Call of the Wild》へと続くマナカーブが重なり、俗にHybridと呼ばれるスタイルと旧来のMidrange Hunterは低コストのミニオン選択以外にほとんど違いは見られなかったのです。今回のコスト調整によって《荒野の呼び声 / Call of the Wild》はアグレッシブなHunterデッキにとってやや重すぎるカードとなりました。さらに、ヒーローパワーや《速射の一矢 / Quick Shot》と併用できなくなったことでフィニッシュに動く時の威力も低下しています。
ウォリアー / Warrior
《止めの一撃 / Execute》
調整内容:マナコストが1上昇
魔素(Arcane dust) 還元量: 分解不可
Warriorクラスの歴史においてこのカードを採用しないデッキがどれほど存在したことでしょうか。たった1マナという低コストで高性能な除去カードはこのクラスにとって無くてはならない存在であり、コストが増加したあともそのことに変わりはないでしょう。なかでもControl Warriorにとってはこの調整はさほど痛手にならないと考えられています。マナを余らせがちなロングゲームを想定すればまさにその通りです。しかし《炎まとう無貌のもの / Flamewreathed Faceless》に今後は4ターン目の除去コンボ(《死憎悔いのグール / Ravaging Ghoul》+《止めの一撃 / Execute》)で対処できないことを考えると、これまでたった1マナコストであった恩恵がどれほど素晴らしいことかを痛感しそうな気がします。
そしてアグレッシブなデッキにおいてはこのコスト増加が大きな問題となります。1マナで相手ミニオンを除去し残りのマナでミニオンや武器のプレッシャーをかけるというテンポゲインはWarrior最大の強みのひとつでもありました。たった1マナされど1マナ。いまはまだこのカードをデッキから抜く判断には至らないでしょうが、除去とは異なる選択肢をアグレッシブなデッキでは考えていく余地が生まれるかもしれません。
《突撃 / Charge》
調整内容:マナコストが2低下、攻撃力+2が削除されそのターン中にヒーローへ攻撃できない
魔素(Arcane dust) 還元量: 分解不可
このカードがカード調整の対象となるのはこれで2回目となります。かつてクローズドβ初期には0マナコストでミニオンに突撃/Chargeを与え、1ターンキルデッキのコンボピースとして猛威を奮いました。正式サービス開始前に現在の性能へと調整がほどこされ、マナコストが大幅に増加したことで実質的にOTKコンボを封じられていたのです。しかし、《ソーリサン皇帝 / Emperor Thaurissan》が登場したことでコストの問題を解消しかつての利用法をプレイヤー達は思い出しました。
ハースストーンの開発チームはミニオン同士の戦闘にゲームの主眼を置いており、カードコンボのピースを集めることで相手に反撃を許さず勝利することを好ましくないものと考えています。実際のところ、そうしたデッキはプレイヤー達のフラストレーションを引き起こす要因となりやすいのです。
今回の調整によって《突撃 / Charge》はもはや1ターンキルのコンボを実現できなくなりました。さらに攻撃力+2のbuff効果を失ったことは大幅な弱体にも見えるかもしれません。しかしマナコストが大幅に低下したことで、このカードは別物のカードへと変化したと見るのが妥当です。
たとえば《熱狂する火霊術師 / Wild Pyromancer》と《突撃 / Charge》を組み合わせることで《なぎ払い / Swipe》と同等の除去が3マナで可能となり、《号令 / Commanding Shout》によってさらにAoEの効果を重ねることができます。《シルヴァナス・ウィンドランナー / Sylvanas Windrunner》に《突撃 / Charge》を付ければ、そのターン中に相手のビッグミニオンを奪い去るという行動が《シールドスラム / Shield Slam》と同様に可能です。または、《アレクストラーザ / Alexstrasza》でどちらかの体力を15に変えつつ8点のミニオン除去というのも面白いでしょう。こうして想像を膨らませていくと、《マグナタウルスの長 / Magnataur Alpha》のような顧みられなかったカード達にも光が当たるかもしれません。
中立 / Neutral
《鬼軍曹 / Abusive Sergeant》
調整内容:攻撃力が1低下
魔素(Arcane dust) 還元量: 40/400(Golden)
アグレッシブなデッキや一部のコンボデッキでお馴染みのカードがnerf調整の対象となりました。マナコストやアビリティには変化がないため、この調整はbuffによって有利なトレードを果たしたあとのプレッシャーを低下させることが目的となるでしょう。
影響を受けるデッキは多岐に渡りますが、同じコストでの代替手段が無いデッキでは引き続き採用されると見られています。能動的にアビリティを発動できる雄叫び/Battlecryの有用性は変わっていません。
《希望の終焉 ヨグ=サロン / Yogg-Saron, Hope's End》
調整内容:ヨグ=サロンが自身の雄叫びによって破壊されたり、沈黙されたり、変身したり、あるいは手札に戻ったりしたとき、呪文の詠唱が止まる
魔素(Arcane dust) 還元量: 1600/3200(Golden)
良くも悪くも議論を呼んだカードがついに調整の対象となりました。この調整はメタゲームに大きな影響を与えるものではありませんが、このカードの存在を問題視していたプレイヤー達の溜飲を下げるには十分なものでしょうか。
公式ブログに書かれている通り、このミニオンは条件とランダム性を加味すれば10マナコストとして強すぎるということはありません。ただし試行回数が増えるほどに好ましいエフェクトが積み重なる性質から、一部のデッキにおいてあまりにも強力な効果を発揮してきました。今回の調整によってカードの性質に変化はありませんが、《希望の終焉 ヨグ=サロン / Yogg-Saron, Hope's End》がボードをクリアした上で自身に有利な効果を積み重ねる現象は減っていくでしょう。ただし、普通ならば逆転不可能な状況をひっくり返す奥の手として今後も一部のデッキでは使われ続けるように思われます。とりわけ強烈なボードクリアを持たないDruidにとっては、いまだ《デスウィング / Deathwing》よりも魅力的に映るはずです。
ハースストーンの開発チームはこのカードの面白さを奪いたくは無いと考えており、個人的には同意できない部分が無いわけではありません。しかし、競技シーンでToken DruidやTempo Mageのように確立されたテーマを持ったデッキが自分の戦略に沿って戦い、それがうまく行かなかったら運を天に預けて神頼みというのはゲームの競技性に照らして正しいものでしょうか。このゲームをe-sportsとしての競技性で売り出してきたのはBlizzard自身であり、競技者達はその目線で開発チームを批判しています。
一方でこのハースストーンというゲームは本来World of Warcraftのスピンオフタイトルであり、パーティゲームの色彩が強いデジタルカードゲームとして出発した経緯もあります。Warcraftのトレーディングカードゲームは過去にも存在しましたが、そのTCGの開発は外注であり対象のプレイヤー層も大幅に変化しました。そしてこのゲームを楽しんでいるのは競技者ばかりではなく、《希望の終焉 ヨグ=サロン / Yogg-Saron, Hope's End》というカードのランダム性を単純に楽しんでいる人々も大勢存在します。様々なスタイルでこのゲームと向き合うプレイヤーが存在する中で、開発チームはぎりぎりの調整を行った点についてわたしは今回のカード調整を素晴らしいものであったと考えています。
もう少し踏み込んで言うと、このカードが使われていた一部のデッキがTier1のデッキとしてラダーや競技的なシーンで活躍していたことこそ、プレイヤー達の心象を悪くしていった要因だとわたしは考えています。実際のところ、このカードがPaladinやPriestクラスしか使えなかったとして、これほどまでに問題視されたことでしょうか?そしてBrian Kiblerが指摘しているように、ゲーム終盤に発生するランダム効果であることもプレイヤーの印象に強く残りやすいものとなっています。今回の調整は根本的な解決ではありません。誰もが納得する結果が存在しない状況の中で、みんなで落とし所を探っていくための一歩であると捉えています。