2017年最初の拡張パックとなる大魔境ウンゴロのリリースが4月初旬に決定されたことにより、クラーケン年の現環境はもはやひと月の時間も残されていません。長いようで短かく感じるクラーケン年を振り返ると惜別の情に駆られますが、シャーマンとウォリアーの見飽きた顔を思い浮かべるとさっさと来月になってしまえという気がしなくもありません。君たちもうええからという思いは誰もが共有しているだろうと思われます。
はたして次の環境はわたし達が期待するようなクラスバランスとデッキバラエティの増加に恵まれるのでしょうか。期待に胸がふくらむ「大魔境ウンゴロ」で追加される新カードは現在5種類発表されており、残る130枚は今週17日以降に順次公開と予告されています。
さて今回の記事は、ローテーションによって脱落するカードと新しい拡張パックで追加されるカード、そして環境の変化によって注目される既存カードなどをひっくるめた内容からひとつのテーマに絞って考えていきたいと思います。
お題はマーロック/Murloc種族、そして主役は《飛刀手流忍者・六丸 / Finja, the Flying Star》です。
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[ページ内リンク]▼ ヒーローは遅れて現れる
▼ 鯛よさらば
▼ ”Water”デッキの流行
▼ ウンゴロへと適応せよ
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ヒーローは遅れて現れる
それがメキシコ式。次期拡張パックの情報がすでに解禁されており、ガジェッツァン環境の終焉が迫ろうとしているこの時期に至って、誰も予想していなかった覆面マスクのヒーローが颯爽と登場しました。
遅れてやってきた風雲児《飛刀手流忍者・六丸 / Finja, the Flying Star》は子分のマーロック2体を従えて数多くのデッキに出没しています。流行の発端となったWarrior・Rogueに留まらず、HunterやZooに果てはDragon Priestに至るまで六丸軍団が飛び出してくるという奇っ怪な状況です。その可能性を探る試みは、まもなく迎えるマンモス年を祝うかのようにメタゲームを賑わしています。
このミニオンは隠れ身/Stealthによって場に伏せられ、翌ターンにダイレクトアタックで相手ミニオンを破壊することにより「デッキからマーロックを2体召喚する」というユニークなアビリティを発動させます。召喚される2体分のマナコストが免除されること、《マーロックの戦隊長 / Murloc Warleader》の種族buff、さらに《飛刀手流忍者・六丸 / Finja, the Flying Star》が行動を起こすターンはプレイヤーがマナを十全に使えるため、強烈なコンボによるボードスイングやテンポ獲得を実現させます。この特性がいかに現在のゲームにおいて有効に機能するものであるかを、わたし達はガジェッツァンリリースから数ヶ月が経過してようやく発見するに至りました。
一般的に新カードがリリースされると、世界中のプレイヤー達による莫大な回数の試行によってカードの評価がコミュニティ間で共有されていきます。しかしこの《飛刀手流忍者・六丸 / Finja, the Flying Star》のように、そのポテンシャルを十分に評価されるまで時間を要することも珍しくはありません。たとえばかつてのPatron Warrior全盛期においては、《ぐったりガブ呑み亭の常連 / Grim Patron》が実装されてからこのミニオンの脅威が周知されるまで丸一ヶ月の隔たりがありました。その後の約半年に渡って環境に君臨する最新最強のデッキが当初、BRM実装で生み出された妙ちきりんなファンデッキだと侮られていたのは事実です。
(15年4月2日に《ぐったりガブ呑み亭の常連 / Grim Patron》が解禁されてから3週間が経過しても、当時コミュニティから信頼を寄せられていたメタ分析記事では下から数えたほうが早い評価を下されていました。) (参照リンク)Power Rank: April Week 3 [Liquidhearth]
《飛刀手流忍者・六丸 / Finja, the Flying Star》は実装当初からAnyfin Paladinの新しいパーツとなる役回りばかりが強調され、アグレッシブなデッキとの親和性が見過ごされてきたように思われます。Brian KiblerのMurloc Shamanのように独創的なデッキが一時注目を集めることはあっても、メタゲームに影響を及ぼすほどの流行には至りませんでした。環境の終わりに差し掛かって誰も予想し得なかったマーロックブームが訪れたことは、メタゲームの観念を柔軟に保つことと視野を広げることの大切さを教えられているかのようです。
さて、今回の記事はこの《飛刀手流忍者・六丸 / Finja, the Flying Star》、およびマーロック/Murlocミニオンに焦点を結びながらスタンダードの更新について考えていくという趣旨です。考慮すべきポイントは①脱落する関連カード、②既存デッキの動静、③新カード、の3つに絞られるので、順を追っていきながら次期環境に期待されるマーロック達の活躍に思いを馳せてみましょう。
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鯛よさらば
まずはカードローテーションについて。次回スタンダード更新では、下記5種類のマーロック/Murloc関連カードがスタンダードから脱落します。
中立/Neutral | 《マーロック・タイニーフィン / Murloc Tinyfin》 | (バニラミニオン) |
中立/Neutral | 《サー・フィンレー・マルグルトン / Sir Finley Mrrgglton》 | 雄叫び: 新たな基本ヒーローパワー1つを発見する。 |
パラディン/Paladin | 《マーロック騎士 / Murloc Knight》 | 激励: ランダムなマーロックを1体召喚する。 |
パラディン/Paladin | 《七つの鯛罪 / Anyfin Can Happen》 | この対戦で死亡したマーロックを7体召喚する。 |
シャーマン/Shaman | 《エラばれし我らにヒレ伏せ / Everyfin is Awesome》 | 味方のミニオン全てに+2/+2を付与する。味方のマーロック1体ごとに、コストが(1)減る。 |
使用不可能になる関連カードは枚数こそ少ないものの、今後の構築に与える影響は無視できません。まずクラス中立カードからは、Aggroデッキのお供であった大卒マーロックこと《サー・フィンレー・マルグルトン / Sir Finley Mrrgglton》が消失します。彼の能力はAggroデッキの性格に適さないヒーローパワーを他クラスのものへと変換することが可能であり、マナをより有効にダメージへと変換するために重宝されてきました。
クラス専用カードではやはり《七つの鯛罪 / Anyfin Can Happen》の脱落が惜しまれます。このカードが消えることはつまり、ゲーム終盤にマーロック軍団を復活させるAnyfin Paladinのデッキ戦略が実行不可能となり、このアーキタイプはスタンダードから完全に消滅することを意味します。今後のControl Paladinは一周回ってふたたびN'Zoth構築へと回帰するか、buff要素を活かす方向性を模索するほかないでしょう。
付け加えて《マーロック騎士 / Murloc Knight》もMidrange Paladinにおいて一時期素晴らしい活躍を果たしていたことが偲ばれます。かつてOil Rogueに絶滅へと追い込まれたMidrange Paladinは以後メタゲームへと戻ってくる気配もありません。次期環境ではドラゴン/Dragonシナジーすら失われてしまい、手元に残るのは現環境でガラクタ扱いされるグライミーグーンズのみです。
もう一方のクラス専用カード、《エラばれし我らにヒレ伏せ / Everyfin is Awesome》はマーロックミニオンが活躍している今まさに待ちかねた出番が訪れており、あと一ヶ月足らずで消えてしまうことが残念に思われます。前ターンに置かれた《飛刀手流忍者・六丸 / Finja, the Flying Star》がデッキからマーロックを呼び出す能力は、行動を起こすターンに別のカードへとマナを振り分けることで《奴らにフカき眠りを / Call in the Finishers》や《エラばれし我らにヒレ伏せ / Everyfin is Awesome》による強大な盤面を瞬間的に作り出す可能性を持っています。
とくにガジェッツァンで追加された《奴らにフカき眠りを / Call in the Finishers》とのコンビネーションは非常に強烈な効果を発揮するものであり、ようやくパーツが揃ったところでスタンダードを去っていくことになるというのは巡り合わせの不幸としか言いようがありません。
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”Water”デッキの流行
カードローテーションに引き続き、お次は流行のWaterデッキについておさらいしていきます。まずはこのニューフェイスの来歴を振り返ってみましょう。
Water Rogue, Water Warrior, Water Shaman, etc・・・ と、このように”Water"をデッキ名に冠するのはごく最近に発生した流行です。ガジェッツァン実装が契機となったわけではありません。拡張パックリリースから2ヶ月以上が経過し、凪のように変化が乏しくなったメタゲームの水面に突如発生した波紋です。
わたしが見聞きしている範囲においては、アメリカ地域選手権を控えた2月中旬のTh3raTのツイートが初出だったように思われます。
I am convinced Water Warrior is good after 20 hours. I didn't have the balls to submit it though.
— Brian Courtade (@Th3raT) 2017年2月14日
この半日後アメリカ地域春季代表へ選出されたFr0zenはデッキリストと共に、Purpleからインスピレーションを受けたものとツイートしています。となればこのデッキアイデアはPurpleのポッドキャストが由来だったのかもしれません。ともあれ、Pirate Warriorをベースに《飛刀手流忍者・六丸 / Finja, the Flying Star》以下5体のマーロックパッケージが組み込まれた奇天烈なカードラインナップと、実際に素晴らしいパフォーマンスを発揮したことが話題を呼び大きな注目を集めました。
Bahamas Lineup thanks @HSPurple for water warrior inspiration pic.twitter.com/pAdo556fMT
— Fr0zen (@LG_Fr0zen) 2017年2月15日
奇をてらったかのように見えたその構築スタイルは、おりしもアグレッシブなデッキを再発見していたRogue達に取り込まれていきます。冬季選手権など競技的なシーンを中心に目覚ましい活躍を見せていたAggro Rogueもまた海賊/Pirate種族ミニオンを数多く採用しており、Warrior同様にFinjaパッケージが馴染むのは当然のことであったかもしれません。
こうして誕生したAggro Pirate Murloc Rogue、通称Water Rogueの構築は《ちんけなバッカニーア / Small-Time Buccaneer》のバランス調整と前後してラダーへと浸透していきます。さっそく数多くのプレイヤー達が結果を残しており、とりわけDwaynaがシーズン最終日にレジェンドランク1位へ到達したのは記憶に新しいところです。
《ちんけなバッカニーア / Small-Time Buccaneer》のnerfによってRogueの減少が危ぶまれていたところで、思いもよらぬAggro Rogue達の快進撃にメタゲームは衝撃を受けました。そして5体のマーロック/Murlocからなる”Finjaパッケージ”の採用は、シーズン更新後のランクリセットを機会とした流行となり、様々なクラスで試されていったのです。
現状ではRogueがこの構築スタイルで最も成功を収めた例となっていますが、来たるべき環境の変化によって他のクラスにもチャンスが訪れるかもしれません。次期環境で頭ひとつ抜きん出るのはどのクラスなのか今の段階では予想もつきませんが、新しいマーロック/Murloc関連カードを活かすことが次期環境へ適応するための手助けとなるでしょう。
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ウンゴロへと適応せよ
いわゆるFinjaパッケージのギミックを次の環境でさらに発展させていくには、ウンゴロのカードセットで追加されるマーロック/Murloc関連カードの存在を考える必要があります。現時点ではBlizzardの意図しないところで(?)漏れてしまったGentle Megasaur以外に情報はありません。
まずは過去のカード追加傾向を参照してみましょう。下記一覧にあるように、NaxxとBRM以外のカードセット全てにマーロック/Murloc種族と関連を持つカードが追加されています。しかしその枚数は決して多いとは言えず、さらにクラス専用カードにも偏りが見られます。
原作に準拠してのものであるか定かではありませんが、追加されたマーロック/Murloc関連カードのうちPaladinとShamanのクラス専用カードが約半数を占めています。また、中立カードにはカラザンで追加された《キュレーター / The Curator》のように、マーロック/Murloc以外の種族との関連性を持つカードも含まれています。
◆ 正式サービス後に追加されたマーロック/Murloc関連カード集計
GvG | 3 | パラディン/Paladin | 4 | マーロック/Murlocミニオン | 12 |
TGT | 1 | シャーマン/Shaman | 4 | 呪文/Spell | 3 |
LOE | 4 | ウォーロック/Warlock | 1 | その他のミニオン | 4 |
WotOG | 3 | 中立/Neutral | 10 | ||
Karazhan | 3 | ||||
MSoG | 5 |
◆ 正式サービス後に追加されたマーロック/Murloc関連カード一覧
◆ クラス毎の適正
上記の前例をふまえて、次期環境でのFinjaパッケージ及びマーロック/Murlocカードとのクラス適性を改めて考えてみましょう。
まずは現行のFinjaパッケージ採用デッキについて。今回のスタンダード更新でほとんどダメージを受けないAggro WarriorとAggro Rogueの構築スタイルでは、次期環境でも継続してFinjaパッケージの採用が検討されると考えられています。しかしマーロック軍団のシナジーは非常にトリッキーな性質を持っており、フェイスラッシュを基本とするデッキの基礎戦術とはいささか性格が異なるものです。
フェイスかマーロックか、この選択はメタゲームの要求に依存するでしょう。《レノ・ジャクソン / Reno Jackson》が失われる次期環境でもハイランダーデッキが数多くプレイされるならば、Finjaパッケージで遠回りするよりもひたすら顔面を叩くほうが適切となるかもしれません。いずれにせよ現環境のWater Rogue、Water Warriorは引き続き活躍することを見込めるでしょう。
では視点を変えて、専用カードが与えられるクラス達の状況はいかがでしょうか。これまでの実績からPaladin・Shamanの2クラスに専用カードが1枚ないし2枚追加される可能性は考えられます。スタンダード更新後もPaladinには《バイルフィンの異端審問官 / Vilefin Inquisitor》が残されており、マーロック/Murlocシナジーを活かした構築への適性は十分にあり得るでしょう。
ガジェッツァンで追加されたbuff能力との化学反応が成功することを期待したいものですが、よりアグレッシブなWarriorやRogueに為す術もなく顔を殴り倒される状況を変えない限りはメタゲームに存在感を表すことはできません。
一方のShamanは《トンネル・トログ / Tunnel Trogg》・《トーテム・ゴーレム / Totem Golem》など定番だった優秀な駒を失うものの、Jadeカードと優秀な除去スペルは潤沢に保っています。さらに《奴らにフカき眠りを / Call in the Finishers》はスペルカードであるため《飛刀手流忍者・六丸 / Finja, the Flying Star》がデッキから引っ張り出すミニオンの邪魔をしないという利点もあります。
ガジェッツァンの追加カードで初のクラス専用カード《シーデビル・スティンガー / Seadevil Stinger》を追加されたWarlockはマナコストの低いマーロック/Murlocミニオン達と元来相性が良いクラスです。2014年まではZooスタイルのデッキが競技的なシーンでもプレイされており、かつてのようにマーロック/Murlocミニオンを主体とするアグレッシブなデッキが登場する可能性はあります。ただしFinjaパッケージを構成する《ブルーギル・ウォリアー / Bluegill Warrior》・《マーロックの戦隊長 / Murloc Warleader》以外のマーロック/Murlocミニオンを採用する場合、《飛刀手流忍者・六丸 / Finja, the Flying Star》のアビリティ特性を活かすことが難しくなります。
◆ ”適応”とマーロック
それでは最後に、ウンゴロ拡張版で新しくゲームに追加されるキーワードアビリティ「adapt(適応)」について考えていきましょう。この能力は10種類の効果から3つの候補がランダムに表示され、そのうち一つだけを選択して発動できるというアビリティです。このアビリティそのものは雄叫び/Battlecryや断末魔/Deathrattleのようなアビリティ発動タイミングを司るトリガーではありません。
さてこの新しい「adapt(適応)」アビリティについては既にマーロック/Murloc種族とシナジーを持つクラス共通カードが一枚明らかになっています。
液状化 | 呪文とヒーローパワーの標的にならない。 |
炎熱の爪 | 攻撃力+3 |
電気の盾 | 聖なる盾 |
動き回る胞子 | 断末魔:1/1の植物を2体召喚する。 |
巨体 | 挑発 |
電光石火 | 疾風 |
Volcanic Might | 体力+3 |
Rocky Carapace | +1/+1 |
Shrouding Mist | 次のターンまで隠れ身 |
Poison Spit | 「このミニオンからダメージを受けたミニオンを破壊する」のアビリティ |
この新カード《Gentle Megasaur》のアビリティは自軍のマーロック/Murlocミニオン全てに「adapt(適応)」を与える能力です。かつての《エンハンス・オ・メカーノ / Enhance-o Mechano》に近い性質ですが、効果を自ら選択できるので状況により適切な対処を可能としてくれます。
開発チームのMike Donais氏によると、選択された効果はボード上のマーロック/Murlocミニオン全てに同じ効果が適用されるそうです。この性質は《飛刀手流忍者・六丸 / Finja, the Flying Star》と相性が抜群であり、恐ろしいバーストダメージやリカバリー不可能なほどのアドバンテージを稼ぎ出す可能性があります。
例えば《マーロックの戦隊長 / Murloc Warleader》のbuff効果を受けてアタック4となった《ブルーギル・ウォリアー / Bluegill Warrior》が2体ボードに存在し、電光石火(疾風/Windfury)の効果を選択できたならば1ターンで16ダメージとなります。電気の盾(聖なる盾/Divine Shield)を付与すればボードクリアは非常に困難になるでしょう。もちろんRNGに依存するため信頼性に欠ける戦術ではあるものの、ほとんどのアビリティがFinjaパッケージが作動した際のテンポに拍車をかけるものです。
このカードがFinjaパッケージの相棒になるかはまだ未知数ですが、ミニオン本体の獣/Beast属性を活かしたミナジェリ(動物園)デッキの構築という可能性も考えられるため非常に興味をそそられる新カードといえます。恐竜と力を合わせてマーロックが次期環境に適応できたならば、次の環境でもFinja軍団の快進撃が期待できるのではないでしょうか。