再評価の季節
《退化 / Devolve》の日本語訳が「鯛化」じゃなかったことには拍子抜けさせられた方も多いでしょうが、同時にこのカードはガジェッツァンリリース後にほとんど顧みられることのない新カードでした。これはカードの性能によるものではなく、リリース当時のメタゲームに求められていなかったことが原因です。
開発チームの想定としては、ハンドbuffによって強化されたミニオンに対するカウンター手段のひとつとして用意されたものであったのではないでしょうか。しかし肝心のグライミーグーンズはあっさりと海賊に白旗をあげてしまいました。さらに《退化 / Devolve》の使い手であるShaman自身はAggroに傾倒し海賊団の仲間入りをしていたのです。
ガジェッツァンのメタゲームは海賊とRenoデッキを中心に煮詰められていき、リリース一ヶ月を過ぎる頃には変化が乏しくなってきました。最大勢力であるShamanクラスの中ではこの状況に新たな活路を見出すべく、カラザン実装前を思い出させるようにMidrange Shamanの割合が日増しに増えつつあります。
《退化 / Devolve》を採用する余地のあるデッキがプレイされていく中で、このカードに再評価の光が当たるのは自然なことであったのでしょう。
範囲とオーバースタッツ殺しの二面性
このShaman専用新カードの性質をいま一度おさらいしていきます。2マナコストのスペルカードでカードテキストは「敵のミニオン全てをそれぞれコストが(1)低いランダムなミニオンに変身させる。」というもの。敵のミニオン全てを対象とする範囲効果であるため、当然ながら対象となる敵ミニオンの数が多いほどカードの価値とコストパフォーマンスが向上します。
この性質を最大限利用するには、《退化 / Devolve》によって相手ミニオン全てを一段階弱体化しAoEによって一掃することが効果的な使用例となるでしょう。ただしこのカードは相手の脅威度を一段階下げることには貢献しますが、ダメージAoEのように敵ミニオンをボードから実際に取り除くには《退化 / Devolve》1枚だけでは用を為しません。
一方で多数のミニオンを巻き込むほど効果的な性質とは別に、対象を別のミニオンに変化させるこの能力は非常に効果的な使用法が存在します。例えば《トーテム・ゴーレム / Totem Golem》や《炎まとう無貌のもの / Flamewreathed Faceless》、または育ちすぎた《クエスト中の冒険者 / Questing Adventurer》や《泡を吹く狂戦士 / Frothing Berserker》のように、マナコスト以上のスタッツを持つミニオンに対しては大きな弱体効果を期待できます。これはミニオンのスタッツだけではなく、《ガジェッツァンの競売人 / Gadgetzan Auctioneer》のようなボードに生存し続けると極めて危険な存在への対処ともなるのです。
ただし《ガジェッツァンの競売人 / Gadgetzan Auctioneer》や《シルヴァナス・ウィンドランナー / Sylvanas Windrunner》のようにクリティカルな脅威を取り除いたとはいえそこには5マナのミニオンが残るので、完全なる脅威の除去とはならない点においてはやはり《呪術 / Hex》に一段劣ります。しかし単体ターゲットスペルと異なり隠れ身/Stealth効果に影響されないという利点は特筆すべきものです。
重ねて言うと、既にボード上に存在するミニオンを対象とするこの性質は挑発/Tauntや断末魔/Deathrattleのアビリティを持つミニオンに対してより効果的であり、雄叫び/Battlecryや突撃/Chargeのミニオンにはコストに見合うだけの価値を得ることが難しくなります。
このような特性を持った《退化 / Devolve》はShamanクラスの低コストなAoEと組み合わせると有効に作用し、オーバースタッツなミニオンで溢れかえる現環境で使い勝手の良い存在として再評価されることとなったのです。
◆ 注意点:
《退化 / Devolve》はカードテキストに書かれたルール通りに作用します。対象となるミニオンが例えばコスト12の《山の巨人 / Mountain Giant》だった場合、マナコスト11のミニオンがゲームに存在しないため《山の巨人 / Mountain Giant》は変身しません。ダメージを受けていたりbuff効果を受けていてもそのままの状態なので、何の影響も及ぼさないのです。これは同じShamanクラスの《進化 / Evolve》を10マナミニオンに使用しても何も変化が起きないのと同様の理由です。
この挙動は0マナミニオンにも当てはまり、《ミラーイメージ / Mirror Image》を変身させて挑発/Tauntを除去することはできません。または《地底よりのもの / Thing from Below》のようにコストが減衰されたミニオンは本来のマナコストが基準値になるためほとんど有効ではありません。(挑発/Tauntを取り除く役割は果たせますが)
マッチアップ毎の用途
この項では現在ラダーで対戦する機会の多いデッキに対してどのようなタイミングで使用するのが適切であるか考えていきましょう。
vs Shaman :
《退化 / Devolve》を使用すべきタイミングは相手のデッキ構成と自身の手札に依存します。基本的には《呪術 / Hex》の代替として効果的であり、テンポの観点から《炎まとう無貌のもの / Flamewreathed Faceless》、バリューにおいては《アヤ・ブラックポー / Aya Blackpaw》に使用するのが望ましいでしょう。
もちろん、相手のアグレッシブな序盤に対処する手段がない場合の保険としても有効です。これまで《トンネル・トログ / Tunnel Trogg》+《野獣の精霊 / Feral Spirit》が最短で並んだ場合は《ライトニングストーム / Lightning Storm》のハイロールを期待するほかありませんでしたが、《退化 / Devolve》によって相手の更なるスノーボールを阻止することができます。
またShamanのミラーマッチにおいては、AoEを警戒しつついかに効率良くトレードを行いボードを拡張するかが重点となります。ここで相手に出されると厄介な《炎の舌のトーテム / Flametongue Totem》、または《サンダー・ブラフの勇士 / Thunder Bluff Valiant》など種族シナジーのbuffを受けたトーテム/Totemを処理するにも便利な存在です。
vs Pirate Warrior :
Pirate Warriorの突撃/Chargeミニオンに対してはもちろん有効ではありません。彼らは召喚された時点で仕事の大半を済ませているからです。このマッチアップではbuff効果を受けると驚異的な《ちんけなバッカニーア / Small-Time Buccaneer》・《ブラッドセイルの略奪者 / Bloodsail Raider》、そして絶対に放置できない《泡を吹く狂戦士 / Frothing Berserker》がメインターゲットになるでしょう。
ただしこれは除去対象となるミニオンが現れるまで温存すべきと奨めるものではありません。Warriorの展開するミニオン達が1マナミニオンばかりだった場合、現在のカードセットでは0マナが《ウィスプ / Wisp》・《マーロック・タイニーフィン / Murloc Tinyfin》の2種だけなので《メイルシュトロームのポータル / Maelstrom Portal》で一掃できます。
また同時に、ミニオンを変身させることによって海賊/Pirate種族のシナジーを失わせる手段も頭の片隅置いておくべきでしょう。《ブラッドセイルの狂信者 / Bloodsail Cultist》や《南海の船長 / Southsea Captain》を出されてからでは遅いのです。
vs Miracle Rogue :
現行のMiracle Rogueに対しては《SI:7諜報員 / SI:7 Agent》や《アジュア・ドレイク / Azure Drake》などを除いてほとんどのミニオンに有効です。
このマッチアップでは特に《呪術 / Hex》の代替として素晴らしく機能します。ミラクルコンボで成長した《クエスト中の冒険者 / Questing Adventurer》・《エドウィン・ヴァンクリーフ / Edwin VanCleef》はただの2マナミニオンに成り果て、《冷血 / Cold Blood》を掛けられていたミニオンはbuffを失います。《墓荒らし / Tomb Pillager》はアタック値を落とした上に《コイン / The Coin》を供給しません。《ガジェッツァンの競売人 / Gadgetzan Auctioneer》は言わずもがな。
《隠蔽 / Conceal》によるミニオンの一時的な保護に対しても、ターゲット指定を必要としない《退化 / Devolve》の利点が光ります。
vs Renolock :
有利とは言い難いこのマッチアップを覆すひとつの鍵になるかもしれません。《トワイライト・ドレイク / Twilight Drake》のように処理が難しいミニオン、タフなヘルス値を持った《さまよう無貌のもの / Faceless Shambler》・または《サンフューリーの護衛 / Sunfury Protector》に挑発/Tauntを付与されたミニオン、安全に《ロード・ジャラクサス / Lord Jaraxxus》へ変身する前置きの《終末予言者 / Doomsayer》などなど、Warlock側のプランを潰すための手段として重宝するでしょう。
他にも《ソーリサン皇帝 / Emperor Thaurissan》や《シルヴァナス・ウィンドランナー / Sylvanas Windrunner》など危険なミニオンへ迅速に対処する方策のひとつとなりますが、《山の巨人 / Mountain Giant》に対しては何の効果も及ぼさないことに留意しておくべきです。
vs Reno Mage :
ボードコントロールに偏重しているReno Mageに対して有効な使用タイミングはそれほど多くありません。《大魔術師アントニダス / Archmage Antonidas》や《ソーリサン皇帝 / Emperor Thaurissan》に対処できない場合の保険として有効ではあります。それ以外では《苦痛の侍祭 / Acolyte of Pain》を変身させてカードリソース補充を阻止したり《終末予言者 / Doomsayer》を対象とするのが効果的でしょう。
あるいはミニオントレードやダメージスペルで対処できない状況において危険なミニオンを《ハイ!なソウルキャスター / Manic Soulcaster》によって複製されるのを防ぐために、既に召喚された《カザカス / Kazakus》や《レノ・ジャクソン / Reno Jackson》を念のため変身させておくような状況も考えられます。
vs Jade Druid :
Jade Druidに対して《退化 / Devolve》はあまり有効に機能しません。
少ないながらも有効な対象はJadeカウントを断末魔/Deathrattleで進める《アヤ・ブラックポー / Aya Blackpaw》・分厚い壁になる《戦の古代樹 / Ancient of War》・ダメージスペルやミニオントレードで対処出来ない場合の《ファンドラル・スタッグヘルム / Fandral Staghelm》等がターゲットになるでしょう。
痒いところへ手が届くカード
前項で例に挙げたように、《退化 / Devolve》というカードはあらゆるマッチアップでさまざまなミニオンを対象にすることが出来る汎用性の高いカードです。単体では除去として心許ないものの、範囲AoEと変身のふたつの側面を持つこのスペルはShamanのゲーム展開を柔軟に支えてくれます。
Shamanといえば単体除去からAoEまでバランス良く除去スペルを備えていることが特徴ですが、当然ながらゲーム中に必要な手段が常に手札にあるとは限りません。3マナで強気に置かれた《ブラン・ブロンズビアード / Brann Bronzebeard》、4マナの《ファンドラル・スタッグヘルム / Fandral Staghelm》、またはミラーマッチの《マナの潮のトーテム / Mana Tide Totem》などなど、有効な除去カードが手札に無いため歯噛みしながら見送る状況もあるでしょう。
ダメージ除去スペルや《呪術 / Hex》が手元にない、またはあっても浪費したくない対象の脅威度を下げるという用途においても、このカードは思いがけず状況を助けてくれます。
ただし、強烈なしっぺ返し(backfire)を食らう可能性があることにだけ留意してください。