※ タイトル画像は特に意味はありません。
新たなカードセット「仁義なきガジェッツァン」がリリースされてから10日ほど経過しました。毎度のごとく新環境が幕を開けたばかりの時期は、メタゲームのダイナミックな変化に目を回しそうになります。
カラザン環境のメタゲームはほんの数日で水平線にかすむ小さな島のように遠ざかり、メリーベンブロード号は七つの海を越えて見慣れない異郷の地へとわたし達を運んできました。ここはガジェッツァン、ギャングと海賊とマーロック達が仁義なき抗争をくりひろげる苛烈な新環境です。挨拶がわりに1ターン目から顔を殴ってくる失敬な対戦相手にもはや驚きもしないでしょう。
この記事では日本時間12月2日のカードパック解禁後に見られたデッキの流行をおさらいしつつ、デッキ同士の力関係と環境の変化を考察していきたいと思います。
考察とか言いつつしょっぱなから他サイトの情報を頼みとするのはちょっと気が引けますが、人間個人が観測できる範囲というのはやはり限られたものです。こういう話はサンプルサイズが重要であり、大量に集積されたデータが説得力を持ちます。Strength in numbers、力こそパワーということでまずは大勢のプレイヤー達の協力によって収集されたデータを足掛かりとして、なるべく普遍的な視点に近づいていきましょう。
本当はわたしの一番のお気に入りサイトであるVicious Syndicateを参考にしたいところですが、新環境での「vs Data Reaper Report」がこの記事の執筆時点では公開されていません。そのためここではMeta Statsの情報を引用し、そこから読み取れる著しい変化に注目していきます。両サイトはデッキ・戦績管理ツールを使用するプレイヤーの協力によって収集された情報に基づくデータ分析である点に留意してください。
参照リンク - Meta Stats
Popular Decks [Meta Stats]
Meta Snapshot Week #47 (Nov 21 - Nov 27) [Meta Stats]
Meta Snapshot Week #48 (Dec 1 - Dec 4) MSoG Data only [Meta Stats]
Meta Snapshot Week #49 (Dec 5 - Dec 11) [Meta Stats]
MSoG Meta Snapshot Week #48 (Dec 1 - Dec 4) - [CompetitiveHS]
※ 注意点
Meta Statsのデッキ使用率集計はPopular Decks(Archetypes)として登録のあるデッキタイプに集計されています。前環境ではReno Priestがメジャーなデッキでは無かったため、「Week #48」段階の集計ではDragon Priestにカウントされており、Jade Shamanも同じくMidrange ShamanとAggro Shamanそれぞれに分類されています。
◆ 前環境との比較
ここで引用したデータを参考にする上で気をつけなければならないのは、注意書きにもある通りデッキのアーキタイプ分類がまだ不完全であることです。「Midrange Shaman」の指すものが前環境の構築なのかそれともJade Lotusのカードシナジーを取り入れたものであるのかは、同じ文脈の中でも全く意味が変わってきてしまいます。この点に留意して前環境との比較し目立つポイントを拾っていきましょう。
まず目につくのは前環境の人気上位デッキが軒並み使用率を下げていることです。新カードが追加されたのですから新しいものを試したいプレイヤー達の欲求に従えば当然の結果ですが、カラザンリリースの時とは比較にならないほどデッキの使用率は一変しています。やはり132種類の新カード追加はそれだけのインパクトを伴っていたのでしょう。加えて、新環境の開始が丁度新しいプレイモードシーズンの変わり目であったことも影響を及ぼしているはずです。
この新環境を先駆けたのは言うまでもなくPirate (Aggro) Warrior。その原動力となったのは中立カードの《海賊パッチーズ / Patches the Pirate》と《ちんけなバッカニーア / Small-Time Buccaneer》、さらにこのデッキに適したカードとしてWarriorクラスには《ホバート・グラップルハンマー / Hobart Grapplehammer》も追加されています。
次いで高い人気を獲得したのは想像以上に高い安定感を示した新しいデッキ、Jade Druidです。新カード《翡翠の開花 / Jade Blossom》にマナ加速とデッキシナジーが組み合わさっていることは力強いテンポを呼び込み、新環境で大勢のプレイヤーが試していたMage・PriestのRenoデッキと好相性だったことが要因と見られます。
三位のDragon PriestにはReno Priestも合算されているため、実質的にReno Warlockが三番手と見るべきでしょう。《超うざい調剤師 / Mistress of Mixtures》・《奈落の始末屋 / Abyssal Enforcer》など様々なパーツが追加された中で、このデッキをプレイする最も大きな理由となったのは《カザカス / Kazakus》です。このカードは元から高かった事前の評価をはるかに上回り、多くのプレイヤー達をRenoデッキへと駆り立てました。Reno PriestとReno Mageの人気の理由も同様です。
ところで今回のエクスパンションは3つの勢力がキーワードになっています。新環境が明けたばかりの現在においてどの勢力が優勢なのでしょうか。Hearthstone公式が発表しているそれぞれの勢力に属するクラスの使用率を参考までにどうぞ。各勢力が拮抗しているようにも見えますが、Grimy Goonsの中身はほぼPirate Warriorです。
個別のデッキを詳しく見ていく前に、ガジェッツァンリリース前のカード事前評価を振り返ってみましょう。国内外の様々なサイトで新カードの考察が行われてきましたが、ここではHearthpwnのコミュニティ投票によるカードランキングを参考にしたいと思います。
参照リンク
Mean Streets of Gadgetzan Community Compendium [Hearthpwn]
Top 10 Rated Cards
Tri-class Card
◆ メタを変えたカードは?
トップ10にランク入りしたカード達はさすがに優秀なカードが多かったので、いずれも新しい構築の中に居場所を見つけています。プレイヤー達が試す新デッキで使われているという意味では、このコミュニティの予想は正しかったといえるでしょう。さて新しいカード達の中で、メタゲームに多大な影響を与えたカードはこの中に含まれているでしょうか?
《ネズミ軍団 / Rat Pack》はやはり優秀なミニオンでした。わたしも個人的に最大の評価を与えていた1枚であり、Renoデッキが流行することが判りきっている新環境において、新たなMidrange Hunterがカウンターとしての役割を担うと信じていました。
言うまでもありませんがこの予想は完全に外れました。余程のもの好きでなければ今現在Hunterをプレイする人はそうそういません。《ネズミ軍団 / Rat Pack》そのものがいかに優秀であろうとも、メタゲームには何の影響も及ぼさなかったのです。メタゲームを塗り替えたという評価軸においては、《カザカス / Kazakus》が最も成功を収めたと見るべきでしょう。
各勢力固有のマルチクラスカード(Tri-class)に目を向けると、ここは完全にコミュニティの予想通りの結果に収まったと見えます。《カザカス / Kazakus》はRenoデッキが流行する原動力となり、そしてRenoデッキにおいて必ず採用されるカードとなっています。
《アヤ・ブラックポー / Aya Blackpaw》はこのカード1枚でJade系デッキがプレイされるほどの影響力を持ちませんが、それでもこのメカニズムを利用するデッキではほぼ必ず採用されます。あとこの3人の中で一番可愛いです。
そして《ドン・ハン=チョー / Don Han'Cho》。このカードそのものはそれなりに高評価です。しかし、グライミー・グーンズのカードを使用するデッキの中では、必ずしも必要な存在ではありませんでした。
さてお気づきのとおり、この投票には《カザカス / Kazakus》なみの影響をメタゲームにもたらしたカードがランクインしていません。海賊/Pirateミニオンの追加によって一部デッキが強化されることは予想の範疇でしたが、まさかこれほど環境を席巻するとは流石にわたしたちも見通せなかったのです。
この新環境を語るにおいてはまずここから話を始めなくてはならないでしょう。デッキ使用率のランキングでトップに立ったPirate Warriorの活躍ぶりは目覚ましいものであり、現在のメタゲームを定義する存在です。この環境最速のデッキを意識せずにラダープレイを回してはいられません。ことに、シーズン始めの数日に見られたこのデッキの勢いはTier1の次元を突き抜けようかと思われるほどのものでした。
ただしこのデッキは幾つも欠点を抱えています。まず簡単にガス欠を起こして詰む、ヘルスごんぶとな挑発/Tauntを置かれたら詰む、体力が低くても複数の挑発/Tauntにウェポンの耐久値を削られたら詰む、武器破壊のテックカードが刺さる、などなど。こうした数多くの弱点を突く対策をプレイヤー達が講じたことによって、デッキ使用率トップをぶっちぎりで独走する勢いはゆるやかに減速しつつあります。
◆ 海賊/Pirateパッケージ
今回のPirate Warrior大躍進で驚かされるのは、先にも書いている通りクラス中立のカードがその原動力となったことです。クラス中立カードといえども構成と噛み合えば、ここまで既存のデッキをリファインさせるのですから油断できたもんじゃありません。そしてご存知のように、この新たな海賊/Pirateパッケージを取り入れたのはAggro Warriorだけではないのです。
約一名を除き、Warriorの他にウェポンを使用するPaladin・Rogue・Shamanの3つでこの海賊/Pirateミニオン達を採用するデッキが登場しました。この2種類のミニオンセットの優れている点は、必ずしもAggro一辺倒のデッキであったり、または他の海賊/Pirateと同時に用いる必要性がないことです。
ゲーム最序盤の盤面確保、最序盤からのダメージによる早いテンポ、相手ミニオンとの有利なトレード、などなど武器使用クラスにとっては序盤戦で非常に有効なカード達なのです。《グレイブズーカ / Glaivezooka》さえスタン落ちしなければHunterでも上手く使いこなせたはずなのが惜しまれるところでしょう。
参照デッキリスト
How to get Legend? Play Pirate Warrior! [CompetitiveHS]
Sintolol's Aggro Pirate Warrior - Rank 1 Legend [TOP DECKS]
Dog's Aggro Paladin [TOP DECKS]
Luffy's Aggro Pirate Rogue [Twitter]
ラダーで活発な存在に対抗する手段を備えたデッキが注目されるのはメタゲームの主要な働きのひとつです。Pirate Warriorの脅威を目の当たりにした人々は、先にも挙げたような対策を素早く身に付けていきました。
そもそもPirate Warrior(Aggro Warrior)は古くからプレイされているデッキです。その対処法も既に確立されたものであり、アンチとなるデッキも複数存在します。その一つであるRenoデッキは折よく新カードの追加を受けて人気が高まっていました。30点のヘルスを素早く削ることに特化したAggroデッキにとって、《レノ・ジャクソン / Reno Jackson》で体力を全快されれば多くの場合そこでゲームが終了してしまいます。
もちろん《レノ・ジャクソン / Reno Jackson》1枚で勝利できるわけではありませんし、6ターン目までに都合よく手札に入ってくるとは限りません。その補強としてデッキの中で変更可能なカード、俗にフレックススロット(flex slot)などと呼ばれる部分に余裕があるならば、ウェポン破壊のアビリティを持つミニオンとして《酸性沼ウーズ / Acidic Swamp Ooze》、または《終末予言者 / Doomsayer》を採用するなどのAggro対策を講じたデッキが目立ちます。
また、Pirate Warriorに対して最も相性の良いクラスに挙げられるのはShamanです。強力な序盤ミニオンの《トンネル・トログ / Tunnel Trogg》と《トーテム・ゴーレム / Totem Golem》、ヘルスの低いミニオンを効率よく除去する《精霊の爪 / Spirit Claws》と《メイルシュトロームのポータル / Maelstrom Portal》、Pirate Warriorにとって至極厄介な複数の挑発/Tauntを並べる《野獣の精霊 / Feral Spirit》など、Pirate Warriorと比較して非常に柔軟な序盤プレイを可能とする手段を数多く備えています。さらにMidrangeやControlデッキでは《ジンユーの水話士 / Jinyu Waterspeaker》という強力な回復手段も加わりました。
その中でもひとつ頭抜けているのはまたしてもAggro Shaman。海賊/Pirateパッケージを取り込んだこの構築は現在、採用を検討されるカードの選択肢が非常に富んでいます。ざっくり2系統に分類するなら旧来のオーバーロード/Overloadカードとスペルによるバーストダメージが強力な構築と、それら定番カードを《翡翠のゴーレム / Jade Golem》を召喚する新カードと差し替えたJade Aggroとなります。どの構築が現環境に最適化されたものなのか再び議論が分かれており、Aggro Shamanはまだまだ研究の余地が残されているように見えます。
そして興味深いところでは、Aggro Shamanの増加に応じて再びDragon Warriorの人気も回復しつつあります。現環境最速のPirate WarriorとAggro Shaman、この同類相食むところへドラゴンが飛んできておいしいところをかっさらうかのような、以前見た記憶のある光景が繰り返されているかのようです。ワン・ナイト・イン・カラザン実装前に見られたあのDragon Warrior旋風も、Aggro Shamanへのカウンターが発端でした。
なお、Dragon Warriorも同様に海賊/Pirateパッケージを採用しているデッキが目立ちます。専用ミニオンの《ン=ゾスの一等航海士 / N'Zoth's First Mate》とも相性が良く、《海賊パッチーズ / Patches the Pirate》と《ちんけなバッカニーア / Small-Time Buccaneer》のどちらもほとんど無駄になることがありません。
参照デッキリスト
Gaara's Aggro Shaman Top 20 legend [Youtube]
Akumaker(Jowen) #1 Legend Jade Aggro Shaman [Twitter]
Spo’s Jade Aggro Shaman [TOP DECKS]
Zalae's Pirate Dragon Warrior [TOP DECKS]
LifeCoach's Dragon Pirate Tempo Warrior [TOP DECKS]
《カザカス / Kazakus》など新カード追加の影響は予想以上に大きく、シーズンが明けたばかりの頃にはMage・Priest・Warlockの3クラスそれぞれでRenoデッキが数多く試されました。Reno MageとReno Priestの二つをメジャーデッキへと押し上げたのは今回のエクスパンションの最も大きな功績といえるでしょう。
それぞれの構築をざっくり見ていきましょう。Reno Mageは旧来のControl Mageの性格を色濃く受け継いでいます。数々のダメージスペルが単体と範囲のどちらにおいても有効な除去として機能し、さらにAoEとして《火山ポーション / Volcanic Potion》まで追加されたReno Mageは、まさにグラインダーのごとく相手のリソースを削り落とすのに長けています。
ただし相手ヒーローのヘルスを削るのに必要なダメージスペルを時には除去として消費しなければならず、勝ち筋がどんどん細く狭まってしまうという課題を残しています。Aggro相手ならば生き延びるだけでほぼ十分ですが、Renoデッキ同士の対戦のようにリソース勝負となれば分が悪くなります。さらに延々とTokenミニオンを召喚し続け脅威を増していくJadeデッキに対しては、やはり非常に苦しい戦いを強いられてしまいます。
一方でDragon PriestはAoEに不安が残るものの、様々なカードシナジーを利用するデッキバリエーションが複数存在します。Controlデッキと性格の似通った構成、激励/Inspireアビリティを持つミニオンの採用、《影なる姿 / Shadowform》のオプション、そしてこれらの背景には新カード《縛鎖のラザ / Raza the Chained》の存在があります。このカードは事前評価に違わぬ性能と汎用性でReno Priestにとって欠かせない存在になりました。
そうして様々に試されてきた中で、いまのところ最も手堅い構築とされているのがDragonミニオンを取り込んだReno Dragon Priestです。《ドラコニッド諜報員 / Drakonid Operative》などシンプルに優秀なミニオンが追加されており、新たなAoEの《ドラゴンファイア・ポーション / Dragonfire Potion》とも相性の良い構成となっています。
どちらのクラスもかつてないほどRenoデッキがプレイされていた印象は強く残っています。しかしそのどちらもAggroに強いという共通点と同時にJadeデッキに対して弱みを抱えています。この点においてヒーローパワーでカードを補充可能なRenolockがやはり、3つのクラスのRenoデッキで最も支持を集めることになりました。大金持ちに夢を見たMageとPriestは初日の勢いが続かず一人去り二人去り、頭を丸めて仏門に帰依ならぬ海賊に職替えしていったようです。
さて、前環境の末期まで死に体だったことが嘘のように、Renolockは現在最も高い信頼を寄せられるデッキの一つへと成長しました。これは新カードによるデッキの改善も当然ですが、後の項で見ていく不得手なコンボデッキやTempo Mage、Hunterが減少していることも大きな要因です。この追い風を掴んだRenolockは、前環境までこのクラスを代表していたZooの構築を遥かに凌駕する人気を獲得しました。
流行のデッキ構成は非常に似通っており、対Aggroカードと価値の高いミニオンを中心に組み立てられています。ウィンコンディションとしては一般的な《ロード・ジャラクサス / Lord Jaraxxus》に加え、《凄まじき力 / Power Overwhelming》+《リロイ・ジェンキンス / Leeroy Jenkins》+《無貌の操り手 / Faceless Manipulator》の20点コンボを備えた構築が高い人気を集めているようです。
断末魔/Deathrattleミニオンと《頽廃させしものン=ゾス / N'Zoth, the Corruptor》によるバリューゲームに強い構成や悪魔/Demonシナジー、またはドラゴン/Dragonシナジーを取り入れた構築も若干プレイされており、C'Thun Renolockはほとんど再評価されていません。
参照デッキリスト
StrifeCro’s Reno Kazakus Mage Ft. Inkmaster Solia Mean Streets of Gadgetzan [TOP DECKS]
Savjz's #1 Legend Reno Kazakus Dragon Priest [Twitter]
Hotform's Reno Dragon Shadowform Priest [TOP DECKS]
Savjz's Rank 1 Legend Kazakus Renolock [Hearthpwn]
Fr0zen’s N’Zoth Renolock [TOP DECKS]
Vlps' Demon Renolock Ft. Kazakus, Felfire Potion, Krul the Unshackled [TOP DECKS]
召喚するたびに徐々に巨大化するTokenミニオンの仕組みは新しいアーキタイプを確立し、翡翠蓮(Jade Lotus)の勢力カードは新環境で十分な成功を収めました。Hearthpwnに登録されたデッキ集計によると、Druidクラスの《アヤ・ブラックポー / Aya Blackpaw》使用率はなんとこの一ヶ月で107.7%という比率の壁をぶちぬいた驚愕の数字を記録しています。アヤ様美しいから当然の結果アルね。
Jadeデッキの特徴はやはり、Token召喚が様々な効果を持つカード達と組み合わさっていることにあるでしょう。ミニオンを召喚しながらToken召喚、ウェポンを装備しながら、ダメージスペルで除去しながら、またはミニオンの断末魔/Deathrattle発動などなど。Token召喚のおまけがあるためカードそのものはさほど優秀ではありませんが、《翡翠のゴーレム / Jade Golem》召喚カウントさえ進んでいればゲーム終盤でもマナコストに比してかなり強力なミニオンを場におくことができます。
そして《翡翠のゴーレム / Jade Golem》を召喚するアビリティは様々なカードと組み合わせてバリューを高めることが可能であり、とりわけControlデッキに対するプレッシャーが強烈です。それではこの勢力に属する3クラスそれぞれのデッキを少しチェックしていきましょう。
まずは冒頭で紹介したMeta Statsの集計において、デッキ使用率2位に浮上したJade Druid。前環境でこのクラスを代表していたMalygos Druidは瞬く間に姿を消し、この新しいアーキタイプにその地位を譲りました。
おそらく、Malygos Druidというデッキそのものが時代遅れになったわけではないのでしょう。例えばRenolockに対しては《翡翠のゴーレム / Jade Golem》メカニズムの不安定なバリュー勝ちを目指すよりも、《マリゴス / Malygos》によるバーストダメージのほうが勝ち筋を組み立てやすいはずです。しかしAggroデッキが氾濫する現在のメタに適していないというのが姿を消した理由のようです。
そして、新たなデッキJade Druidの人気の理由もそこにあるのかもしれません。次々と生み出すTokenは相手ミニオンとのトレード材料になり、《翡翠の巨象 / Jade Behemoth》など複数の挑発/Tauntを持つため、Pirate Warriorに対してある程度の耐性を持っています。そこに加えてRenoデッキに対して優位に立ち回れることが新環境初旬の人気に繋がったようです。しかしAggro Shamanの再登場がこのデッキの人気持続に黄信号を灯しています。
さてRogueはいかがでしょうか。新環境が明けたばかりの頃、Reno MageやReno Priestに挑戦するプレイヤー達の多かった瞬間はJade Rogueにとって幸せなひとときでした。《翡翠の鎌刀 / Jade Swarmer》と《アヤ・ブラックポー / Aya Blackpaw》の断末魔/Deathrattleという特性を活かした構築は早期から高い完成度を示し、旧神の一柱《頽廃させしものン=ゾス / N'Zoth, the Corruptor》を新環境で最も活かす構築になろうかと思われました。
しかし、基本的に挑発/Tauntミニオンを持たないノーガード戦法のこのクラスは、致命的にPirate Warriorとの相性が悪かったのです。デッキそのものが悪かったというよりも、メタに合っていなかった典型例でしょう。
3番目のShamanは《翡翠のゴーレム / Jade Golem》という新たなシステムを最も幅広く活かすことに成功しています。先に紹介したJade Aggro、Midrange Shamanの構築をJade系カードに換装したJade Midrange、そして一部ではJade Controlが高い評価を受けています。前環境で常に頂点に君臨していたMidrange Shamanは大きく数を減らしましたが、Jade AggroやJade Midrangeに鞍替えしただけでしょう。いずれのデッキも環境に多く存在するアグレッシブなデッキに対処可能であることが、新環境でもShamanの人気を支え続けています。
参照デッキリスト
JustSaiyan's #1 Legend Jade Druid [Twitter]
[Top 1] Dalesom's Jade Druid [Hearthpwn]
Thijs' N'Zoth Jade Rogue [TOP DECKS]
Frodan's Jade N'Zoth Rogue [Twitter]
*RANK 1* Midrange Jade Shaman [Hearthpwn]
Noxious - The Jade Control Shaman! [Youtube]
Controlデッキが流行したならばそのカウンターとして機能するデッキが支持を集めるのが道理です。シーズン初旬のReno軍団に対抗するデッキ候補は数多く存在しているはずでした。そのひとつ、新カードの《レッド・マナ・ワーム / Red Mana Wyrm》を利用したMiracle Rogueに熱い注目が集まったのも束の間、Aggroデッキの攻勢の前に敗れ去り消えていきました。Controlデッキへのカウンターとして戦う以前に、Pirate Warriorなどの早いデッキに対処できなければこの環境では生きていけません。
この弱点をMiracle Rogueが(ある程度)克服した方法はご存知のように、海賊/Pirateミニオンのパッケージを採用することでした。《ちんけなバッカニーア / Small-Time Buccaneer》は2ターン目に確実にウェポンを装備できるRogueにとって非常に優秀なトレード要員となります。1ターン目のドロップからCombo発動の準備役までこなす《怪盗紳士 / Swashburglar》は海賊/Pirate属性を持つため《海賊パッチーズ / Patches the Pirate》を射出することが可能ですし、《冷血 / Cold Blood》を乗せてバーストダメージを放つ《南海の甲板員 / Southsea Deckhand》も同じく海賊/Pirate属性を持っています。
WarriorとShamanのアグロブラザースにはいまだ厳しい戦いを強いられるものの、Renolock・Jade Druid・Priestなどその他の人気デッキに有利な相性を持っており、もし仮にAggroメタが一息ついたならば一足飛びでTier1に駆け上がる可能性は十分にあるはずです。
そして今現在ほかに有効なコンボデッキとして評価されているのはAviana Kun Druidでしょう。マナを回復する《忘却王クン / Kun the Forgotten King》とミニオン召喚を1コストに減衰する《アヴィアナ / Aviana》の性質を組み合わせ、カードが手札に揃えば相手のヘルスを1ターンで削りきる驚異的なコンボを可能とします。
コンボの組み合わせは様々にアイデアが存在し、現在主流な組み合わせは《マリゴス / Malygos》のスペルダメージバーストと、《ブラン・ブロンズビアード / Brann Bronzebeard》+《クトゥーン / C'Thun》の二通りとなっています。
参照デッキリスト
Feno's Red Mana Wyrm Miracle Rogue [TOP DECKS]
Decklist spotlight: Rufeng’s Pirate Rogue - #1 Legend on Asia [GosuGamers]
Kun Malygos Druid Gadgetzan [Icy Veins]
Senfglas' Aviana, Kun, C'Thun Druid [TOP DECKS]
仁義なきガジェッツァンのカードセットは環境を一変させメタゲームを塗り替えました。その結果がやっぱりAggro Shamanだよね、という結論にいまのところ落ち着いているのが釈然としないところであります。海外プレイヤー達の間では、新たな構築に挑戦せずAggro Shamanをプレイすることを、ダークサイドに落ちるなどと表現する人すら見かけます。ともあれまだ新環境は始まったばかりですし、プレイヤー達が起こすイノベーションに期待しましょう。
さて今回の記事ではグライミー・グーンズ(Grimy Goons)の勢力に所属するカードについてほとんど触れていません。Handbuff HunterやHundbuff Paladin、Hundbuff Taunt Warriorなど新しい構築は登場したものの、新環境開けて数日の間に消えていきメタゲームにいささかの爪痕も残していないから致し方ありません。
その主な要因はハンドbuffというメカニズムが貧弱だという話ではなく、今の流行デッキの中では強みを活かせないだけであると願っています。アグレッシブなデッキの津波が過ぎ去った頃に、ふたたびそのポテンシャルを試す瞬間がきっと訪れるでしょう。
参照デッキリスト
Deck Guide: Hand-buff Beast Hunter [Good Gaming]
Firebat’s Aggro Murloc Paladin [TOP DECKS]
StrifeCro’s Hand Buff Midrange Paladin [TOP DECKS]
Kolento's Taunt Buff Warrior [TOP DECKS]
Fibonacci's N'zoth Warrior [Twitter]
新たなカードセット「仁義なきガジェッツァン」がリリースされてから10日ほど経過しました。毎度のごとく新環境が幕を開けたばかりの時期は、メタゲームのダイナミックな変化に目を回しそうになります。
カラザン環境のメタゲームはほんの数日で水平線にかすむ小さな島のように遠ざかり、メリーベンブロード号は七つの海を越えて見慣れない異郷の地へとわたし達を運んできました。ここはガジェッツァン、ギャングと海賊とマーロック達が仁義なき抗争をくりひろげる苛烈な新環境です。挨拶がわりに1ターン目から顔を殴ってくる失敬な対戦相手にもはや驚きもしないでしょう。
この記事では日本時間12月2日のカードパック解禁後に見られたデッキの流行をおさらいしつつ、デッキ同士の力関係と環境の変化を考察していきたいと思います。
Chapter.1 データで読み解くメタゲーム
考察とか言いつつしょっぱなから他サイトの情報を頼みとするのはちょっと気が引けますが、人間個人が観測できる範囲というのはやはり限られたものです。こういう話はサンプルサイズが重要であり、大量に集積されたデータが説得力を持ちます。Strength in numbers、力こそパワーということでまずは大勢のプレイヤー達の協力によって収集されたデータを足掛かりとして、なるべく普遍的な視点に近づいていきましょう。
本当はわたしの一番のお気に入りサイトであるVicious Syndicateを参考にしたいところですが、新環境での「vs Data Reaper Report」がこの記事の執筆時点では公開されていません。そのためここではMeta Statsの情報を引用し、そこから読み取れる著しい変化に注目していきます。両サイトはデッキ・戦績管理ツールを使用するプレイヤーの協力によって収集された情報に基づくデータ分析である点に留意してください。
参照リンク - Meta Stats
Popular Decks [Meta Stats]
Meta Snapshot Week #47 (Nov 21 - Nov 27) [Meta Stats]
Meta Snapshot Week #48 (Dec 1 - Dec 4) MSoG Data only [Meta Stats]
Meta Snapshot Week #49 (Dec 5 - Dec 11) [Meta Stats]
MSoG Meta Snapshot Week #48 (Dec 1 - Dec 4) - [CompetitiveHS]
※ 注意点
Meta Statsのデッキ使用率集計はPopular Decks(Archetypes)として登録のあるデッキタイプに集計されています。前環境ではReno Priestがメジャーなデッキでは無かったため、「Week #48」段階の集計ではDragon Priestにカウントされており、Jade Shamanも同じくMidrange ShamanとAggro Shamanそれぞれに分類されています。
◆ 前環境との比較
ここで引用したデータを参考にする上で気をつけなければならないのは、注意書きにもある通りデッキのアーキタイプ分類がまだ不完全であることです。「Midrange Shaman」の指すものが前環境の構築なのかそれともJade Lotusのカードシナジーを取り入れたものであるのかは、同じ文脈の中でも全く意味が変わってきてしまいます。この点に留意して前環境との比較し目立つポイントを拾っていきましょう。
まず目につくのは前環境の人気上位デッキが軒並み使用率を下げていることです。新カードが追加されたのですから新しいものを試したいプレイヤー達の欲求に従えば当然の結果ですが、カラザンリリースの時とは比較にならないほどデッキの使用率は一変しています。やはり132種類の新カード追加はそれだけのインパクトを伴っていたのでしょう。加えて、新環境の開始が丁度新しいプレイモードシーズンの変わり目であったことも影響を及ぼしているはずです。
この新環境を先駆けたのは言うまでもなくPirate (Aggro) Warrior。その原動力となったのは中立カードの《海賊パッチーズ / Patches the Pirate》と《ちんけなバッカニーア / Small-Time Buccaneer》、さらにこのデッキに適したカードとしてWarriorクラスには《ホバート・グラップルハンマー / Hobart Grapplehammer》も追加されています。
次いで高い人気を獲得したのは想像以上に高い安定感を示した新しいデッキ、Jade Druidです。新カード《翡翠の開花 / Jade Blossom》にマナ加速とデッキシナジーが組み合わさっていることは力強いテンポを呼び込み、新環境で大勢のプレイヤーが試していたMage・PriestのRenoデッキと好相性だったことが要因と見られます。
三位のDragon PriestにはReno Priestも合算されているため、実質的にReno Warlockが三番手と見るべきでしょう。《超うざい調剤師 / Mistress of Mixtures》・《奈落の始末屋 / Abyssal Enforcer》など様々なパーツが追加された中で、このデッキをプレイする最も大きな理由となったのは《カザカス / Kazakus》です。このカードは元から高かった事前の評価をはるかに上回り、多くのプレイヤー達をRenoデッキへと駆り立てました。Reno PriestとReno Mageの人気の理由も同様です。
ところで今回のエクスパンションは3つの勢力がキーワードになっています。新環境が明けたばかりの現在においてどの勢力が優勢なのでしょうか。Hearthstone公式が発表しているそれぞれの勢力に属するクラスの使用率を参考までにどうぞ。各勢力が拮抗しているようにも見えますが、Grimy Goonsの中身はほぼPirate Warriorです。
The #kabal is moving in on the #grimygoons turf. https://t.co/HLBJp7KYyh pic.twitter.com/jPrIl4VlIL
— Hearthstone (@PlayHearthstone) 2016年12月6日
Chapter.2 コミュニティのカード事前評価
個別のデッキを詳しく見ていく前に、ガジェッツァンリリース前のカード事前評価を振り返ってみましょう。国内外の様々なサイトで新カードの考察が行われてきましたが、ここではHearthpwnのコミュニティ投票によるカードランキングを参考にしたいと思います。
参照リンク
Mean Streets of Gadgetzan Community Compendium [Hearthpwn]
Top 10 Rated Cards
Tri-class Card
《カザカス / Kazakus》 | 86 |
《アヤ・ブラックポー / Aya Blackpaw》 | 79 |
《ドン・ハン=チョー / Don Han'Cho》 | 64 |
◆ メタを変えたカードは?
トップ10にランク入りしたカード達はさすがに優秀なカードが多かったので、いずれも新しい構築の中に居場所を見つけています。プレイヤー達が試す新デッキで使われているという意味では、このコミュニティの予想は正しかったといえるでしょう。さて新しいカード達の中で、メタゲームに多大な影響を与えたカードはこの中に含まれているでしょうか?
《ネズミ軍団 / Rat Pack》はやはり優秀なミニオンでした。わたしも個人的に最大の評価を与えていた1枚であり、Renoデッキが流行することが判りきっている新環境において、新たなMidrange Hunterがカウンターとしての役割を担うと信じていました。
言うまでもありませんがこの予想は完全に外れました。余程のもの好きでなければ今現在Hunterをプレイする人はそうそういません。《ネズミ軍団 / Rat Pack》そのものがいかに優秀であろうとも、メタゲームには何の影響も及ぼさなかったのです。メタゲームを塗り替えたという評価軸においては、《カザカス / Kazakus》が最も成功を収めたと見るべきでしょう。
各勢力固有のマルチクラスカード(Tri-class)に目を向けると、ここは完全にコミュニティの予想通りの結果に収まったと見えます。《カザカス / Kazakus》はRenoデッキが流行する原動力となり、そしてRenoデッキにおいて必ず採用されるカードとなっています。
《アヤ・ブラックポー / Aya Blackpaw》はこのカード1枚でJade系デッキがプレイされるほどの影響力を持ちませんが、それでもこのメカニズムを利用するデッキではほぼ必ず採用されます。あとこの3人の中で一番可愛いです。
そして《ドン・ハン=チョー / Don Han'Cho》。このカードそのものはそれなりに高評価です。しかし、グライミー・グーンズのカードを使用するデッキの中では、必ずしも必要な存在ではありませんでした。
さてお気づきのとおり、この投票には《カザカス / Kazakus》なみの影響をメタゲームにもたらしたカードがランクインしていません。海賊/Pirateミニオンの追加によって一部デッキが強化されることは予想の範疇でしたが、まさかこれほど環境を席巻するとは流石にわたしたちも見通せなかったのです。
Chapter.3 第四勢力、海賊の躍進
この新環境を語るにおいてはまずここから話を始めなくてはならないでしょう。デッキ使用率のランキングでトップに立ったPirate Warriorの活躍ぶりは目覚ましいものであり、現在のメタゲームを定義する存在です。この環境最速のデッキを意識せずにラダープレイを回してはいられません。ことに、シーズン始めの数日に見られたこのデッキの勢いはTier1の次元を突き抜けようかと思われるほどのものでした。
ただしこのデッキは幾つも欠点を抱えています。まず簡単にガス欠を起こして詰む、ヘルスごんぶとな挑発/Tauntを置かれたら詰む、体力が低くても複数の挑発/Tauntにウェポンの耐久値を削られたら詰む、武器破壊のテックカードが刺さる、などなど。こうした数多くの弱点を突く対策をプレイヤー達が講じたことによって、デッキ使用率トップをぶっちぎりで独走する勢いはゆるやかに減速しつつあります。
◆ 海賊/Pirateパッケージ
今回のPirate Warrior大躍進で驚かされるのは、先にも書いている通りクラス中立のカードがその原動力となったことです。クラス中立カードといえども構成と噛み合えば、ここまで既存のデッキをリファインさせるのですから油断できたもんじゃありません。そしてご存知のように、この新たな海賊/Pirateパッケージを取り入れたのはAggro Warriorだけではないのです。
約一名を除き、Warriorの他にウェポンを使用するPaladin・Rogue・Shamanの3つでこの海賊/Pirateミニオン達を採用するデッキが登場しました。この2種類のミニオンセットの優れている点は、必ずしもAggro一辺倒のデッキであったり、または他の海賊/Pirateと同時に用いる必要性がないことです。
ゲーム最序盤の盤面確保、最序盤からのダメージによる早いテンポ、相手ミニオンとの有利なトレード、などなど武器使用クラスにとっては序盤戦で非常に有効なカード達なのです。《グレイブズーカ / Glaivezooka》さえスタン落ちしなければHunterでも上手く使いこなせたはずなのが惜しまれるところでしょう。
参照デッキリスト
How to get Legend? Play Pirate Warrior! [CompetitiveHS]
Sintolol's Aggro Pirate Warrior - Rank 1 Legend [TOP DECKS]
Dog's Aggro Paladin [TOP DECKS]
Luffy's Aggro Pirate Rogue [Twitter]
Chapter.4 Pirate Warriorへのカウンター
ラダーで活発な存在に対抗する手段を備えたデッキが注目されるのはメタゲームの主要な働きのひとつです。Pirate Warriorの脅威を目の当たりにした人々は、先にも挙げたような対策を素早く身に付けていきました。
そもそもPirate Warrior(Aggro Warrior)は古くからプレイされているデッキです。その対処法も既に確立されたものであり、アンチとなるデッキも複数存在します。その一つであるRenoデッキは折よく新カードの追加を受けて人気が高まっていました。30点のヘルスを素早く削ることに特化したAggroデッキにとって、《レノ・ジャクソン / Reno Jackson》で体力を全快されれば多くの場合そこでゲームが終了してしまいます。
もちろん《レノ・ジャクソン / Reno Jackson》1枚で勝利できるわけではありませんし、6ターン目までに都合よく手札に入ってくるとは限りません。その補強としてデッキの中で変更可能なカード、俗にフレックススロット(flex slot)などと呼ばれる部分に余裕があるならば、ウェポン破壊のアビリティを持つミニオンとして《酸性沼ウーズ / Acidic Swamp Ooze》、または《終末予言者 / Doomsayer》を採用するなどのAggro対策を講じたデッキが目立ちます。
また、Pirate Warriorに対して最も相性の良いクラスに挙げられるのはShamanです。強力な序盤ミニオンの《トンネル・トログ / Tunnel Trogg》と《トーテム・ゴーレム / Totem Golem》、ヘルスの低いミニオンを効率よく除去する《精霊の爪 / Spirit Claws》と《メイルシュトロームのポータル / Maelstrom Portal》、Pirate Warriorにとって至極厄介な複数の挑発/Tauntを並べる《野獣の精霊 / Feral Spirit》など、Pirate Warriorと比較して非常に柔軟な序盤プレイを可能とする手段を数多く備えています。さらにMidrangeやControlデッキでは《ジンユーの水話士 / Jinyu Waterspeaker》という強力な回復手段も加わりました。
その中でもひとつ頭抜けているのはまたしてもAggro Shaman。海賊/Pirateパッケージを取り込んだこの構築は現在、採用を検討されるカードの選択肢が非常に富んでいます。ざっくり2系統に分類するなら旧来のオーバーロード/Overloadカードとスペルによるバーストダメージが強力な構築と、それら定番カードを《翡翠のゴーレム / Jade Golem》を召喚する新カードと差し替えたJade Aggroとなります。どの構築が現環境に最適化されたものなのか再び議論が分かれており、Aggro Shamanはまだまだ研究の余地が残されているように見えます。
そして興味深いところでは、Aggro Shamanの増加に応じて再びDragon Warriorの人気も回復しつつあります。現環境最速のPirate WarriorとAggro Shaman、この同類相食むところへドラゴンが飛んできておいしいところをかっさらうかのような、以前見た記憶のある光景が繰り返されているかのようです。ワン・ナイト・イン・カラザン実装前に見られたあのDragon Warrior旋風も、Aggro Shamanへのカウンターが発端でした。
なお、Dragon Warriorも同様に海賊/Pirateパッケージを採用しているデッキが目立ちます。専用ミニオンの《ン=ゾスの一等航海士 / N'Zoth's First Mate》とも相性が良く、《海賊パッチーズ / Patches the Pirate》と《ちんけなバッカニーア / Small-Time Buccaneer》のどちらもほとんど無駄になることがありません。
参照デッキリスト
Gaara's Aggro Shaman Top 20 legend [Youtube]
Akumaker(Jowen) #1 Legend Jade Aggro Shaman [Twitter]
Spo’s Jade Aggro Shaman [TOP DECKS]
Zalae's Pirate Dragon Warrior [TOP DECKS]
LifeCoach's Dragon Pirate Tempo Warrior [TOP DECKS]
Chapter.5 大金持ちが多すぎる件
《カザカス / Kazakus》など新カード追加の影響は予想以上に大きく、シーズンが明けたばかりの頃にはMage・Priest・Warlockの3クラスそれぞれでRenoデッキが数多く試されました。Reno MageとReno Priestの二つをメジャーデッキへと押し上げたのは今回のエクスパンションの最も大きな功績といえるでしょう。
それぞれの構築をざっくり見ていきましょう。Reno Mageは旧来のControl Mageの性格を色濃く受け継いでいます。数々のダメージスペルが単体と範囲のどちらにおいても有効な除去として機能し、さらにAoEとして《火山ポーション / Volcanic Potion》まで追加されたReno Mageは、まさにグラインダーのごとく相手のリソースを削り落とすのに長けています。
ただし相手ヒーローのヘルスを削るのに必要なダメージスペルを時には除去として消費しなければならず、勝ち筋がどんどん細く狭まってしまうという課題を残しています。Aggro相手ならば生き延びるだけでほぼ十分ですが、Renoデッキ同士の対戦のようにリソース勝負となれば分が悪くなります。さらに延々とTokenミニオンを召喚し続け脅威を増していくJadeデッキに対しては、やはり非常に苦しい戦いを強いられてしまいます。
一方でDragon PriestはAoEに不安が残るものの、様々なカードシナジーを利用するデッキバリエーションが複数存在します。Controlデッキと性格の似通った構成、激励/Inspireアビリティを持つミニオンの採用、《影なる姿 / Shadowform》のオプション、そしてこれらの背景には新カード《縛鎖のラザ / Raza the Chained》の存在があります。このカードは事前評価に違わぬ性能と汎用性でReno Priestにとって欠かせない存在になりました。
そうして様々に試されてきた中で、いまのところ最も手堅い構築とされているのがDragonミニオンを取り込んだReno Dragon Priestです。《ドラコニッド諜報員 / Drakonid Operative》などシンプルに優秀なミニオンが追加されており、新たなAoEの《ドラゴンファイア・ポーション / Dragonfire Potion》とも相性の良い構成となっています。
どちらのクラスもかつてないほどRenoデッキがプレイされていた印象は強く残っています。しかしそのどちらもAggroに強いという共通点と同時にJadeデッキに対して弱みを抱えています。この点においてヒーローパワーでカードを補充可能なRenolockがやはり、3つのクラスのRenoデッキで最も支持を集めることになりました。大金持ちに夢を見たMageとPriestは初日の勢いが続かず一人去り二人去り、頭を丸めて仏門に帰依ならぬ海賊に職替えしていったようです。
さて、前環境の末期まで死に体だったことが嘘のように、Renolockは現在最も高い信頼を寄せられるデッキの一つへと成長しました。これは新カードによるデッキの改善も当然ですが、後の項で見ていく不得手なコンボデッキやTempo Mage、Hunterが減少していることも大きな要因です。この追い風を掴んだRenolockは、前環境までこのクラスを代表していたZooの構築を遥かに凌駕する人気を獲得しました。
流行のデッキ構成は非常に似通っており、対Aggroカードと価値の高いミニオンを中心に組み立てられています。ウィンコンディションとしては一般的な《ロード・ジャラクサス / Lord Jaraxxus》に加え、《凄まじき力 / Power Overwhelming》+《リロイ・ジェンキンス / Leeroy Jenkins》+《無貌の操り手 / Faceless Manipulator》の20点コンボを備えた構築が高い人気を集めているようです。
断末魔/Deathrattleミニオンと《頽廃させしものン=ゾス / N'Zoth, the Corruptor》によるバリューゲームに強い構成や悪魔/Demonシナジー、またはドラゴン/Dragonシナジーを取り入れた構築も若干プレイされており、C'Thun Renolockはほとんど再評価されていません。
参照デッキリスト
StrifeCro’s Reno Kazakus Mage Ft. Inkmaster Solia Mean Streets of Gadgetzan [TOP DECKS]
Savjz's #1 Legend Reno Kazakus Dragon Priest [Twitter]
Hotform's Reno Dragon Shadowform Priest [TOP DECKS]
Savjz's Rank 1 Legend Kazakus Renolock [Hearthpwn]
Fr0zen’s N’Zoth Renolock [TOP DECKS]
Vlps' Demon Renolock Ft. Kazakus, Felfire Potion, Krul the Unshackled [TOP DECKS]
Chapter.6 翡翠の力は無限のバリュー?
召喚するたびに徐々に巨大化するTokenミニオンの仕組みは新しいアーキタイプを確立し、翡翠蓮(Jade Lotus)の勢力カードは新環境で十分な成功を収めました。Hearthpwnに登録されたデッキ集計によると、Druidクラスの《アヤ・ブラックポー / Aya Blackpaw》使用率はなんとこの一ヶ月で107.7%という比率の壁をぶちぬいた驚愕の数字を記録しています。アヤ様美しいから当然の結果アルね。
Jadeデッキの特徴はやはり、Token召喚が様々な効果を持つカード達と組み合わさっていることにあるでしょう。ミニオンを召喚しながらToken召喚、ウェポンを装備しながら、ダメージスペルで除去しながら、またはミニオンの断末魔/Deathrattle発動などなど。Token召喚のおまけがあるためカードそのものはさほど優秀ではありませんが、《翡翠のゴーレム / Jade Golem》召喚カウントさえ進んでいればゲーム終盤でもマナコストに比してかなり強力なミニオンを場におくことができます。
そして《翡翠のゴーレム / Jade Golem》を召喚するアビリティは様々なカードと組み合わせてバリューを高めることが可能であり、とりわけControlデッキに対するプレッシャーが強烈です。それではこの勢力に属する3クラスそれぞれのデッキを少しチェックしていきましょう。
まずは冒頭で紹介したMeta Statsの集計において、デッキ使用率2位に浮上したJade Druid。前環境でこのクラスを代表していたMalygos Druidは瞬く間に姿を消し、この新しいアーキタイプにその地位を譲りました。
おそらく、Malygos Druidというデッキそのものが時代遅れになったわけではないのでしょう。例えばRenolockに対しては《翡翠のゴーレム / Jade Golem》メカニズムの不安定なバリュー勝ちを目指すよりも、《マリゴス / Malygos》によるバーストダメージのほうが勝ち筋を組み立てやすいはずです。しかしAggroデッキが氾濫する現在のメタに適していないというのが姿を消した理由のようです。
そして、新たなデッキJade Druidの人気の理由もそこにあるのかもしれません。次々と生み出すTokenは相手ミニオンとのトレード材料になり、《翡翠の巨象 / Jade Behemoth》など複数の挑発/Tauntを持つため、Pirate Warriorに対してある程度の耐性を持っています。そこに加えてRenoデッキに対して優位に立ち回れることが新環境初旬の人気に繋がったようです。しかしAggro Shamanの再登場がこのデッキの人気持続に黄信号を灯しています。
さてRogueはいかがでしょうか。新環境が明けたばかりの頃、Reno MageやReno Priestに挑戦するプレイヤー達の多かった瞬間はJade Rogueにとって幸せなひとときでした。《翡翠の鎌刀 / Jade Swarmer》と《アヤ・ブラックポー / Aya Blackpaw》の断末魔/Deathrattleという特性を活かした構築は早期から高い完成度を示し、旧神の一柱《頽廃させしものン=ゾス / N'Zoth, the Corruptor》を新環境で最も活かす構築になろうかと思われました。
しかし、基本的に挑発/Tauntミニオンを持たないノーガード戦法のこのクラスは、致命的にPirate Warriorとの相性が悪かったのです。デッキそのものが悪かったというよりも、メタに合っていなかった典型例でしょう。
3番目のShamanは《翡翠のゴーレム / Jade Golem》という新たなシステムを最も幅広く活かすことに成功しています。先に紹介したJade Aggro、Midrange Shamanの構築をJade系カードに換装したJade Midrange、そして一部ではJade Controlが高い評価を受けています。前環境で常に頂点に君臨していたMidrange Shamanは大きく数を減らしましたが、Jade AggroやJade Midrangeに鞍替えしただけでしょう。いずれのデッキも環境に多く存在するアグレッシブなデッキに対処可能であることが、新環境でもShamanの人気を支え続けています。
参照デッキリスト
JustSaiyan's #1 Legend Jade Druid [Twitter]
[Top 1] Dalesom's Jade Druid [Hearthpwn]
Thijs' N'Zoth Jade Rogue [TOP DECKS]
Frodan's Jade N'Zoth Rogue [Twitter]
*RANK 1* Midrange Jade Shaman [Hearthpwn]
Noxious - The Jade Control Shaman! [Youtube]
Chapter.7 コンボデッキはつらいよ
Controlデッキが流行したならばそのカウンターとして機能するデッキが支持を集めるのが道理です。シーズン初旬のReno軍団に対抗するデッキ候補は数多く存在しているはずでした。そのひとつ、新カードの《レッド・マナ・ワーム / Red Mana Wyrm》を利用したMiracle Rogueに熱い注目が集まったのも束の間、Aggroデッキの攻勢の前に敗れ去り消えていきました。Controlデッキへのカウンターとして戦う以前に、Pirate Warriorなどの早いデッキに対処できなければこの環境では生きていけません。
この弱点をMiracle Rogueが(ある程度)克服した方法はご存知のように、海賊/Pirateミニオンのパッケージを採用することでした。《ちんけなバッカニーア / Small-Time Buccaneer》は2ターン目に確実にウェポンを装備できるRogueにとって非常に優秀なトレード要員となります。1ターン目のドロップからCombo発動の準備役までこなす《怪盗紳士 / Swashburglar》は海賊/Pirate属性を持つため《海賊パッチーズ / Patches the Pirate》を射出することが可能ですし、《冷血 / Cold Blood》を乗せてバーストダメージを放つ《南海の甲板員 / Southsea Deckhand》も同じく海賊/Pirate属性を持っています。
WarriorとShamanのアグロブラザースにはいまだ厳しい戦いを強いられるものの、Renolock・Jade Druid・Priestなどその他の人気デッキに有利な相性を持っており、もし仮にAggroメタが一息ついたならば一足飛びでTier1に駆け上がる可能性は十分にあるはずです。
そして今現在ほかに有効なコンボデッキとして評価されているのはAviana Kun Druidでしょう。マナを回復する《忘却王クン / Kun the Forgotten King》とミニオン召喚を1コストに減衰する《アヴィアナ / Aviana》の性質を組み合わせ、カードが手札に揃えば相手のヘルスを1ターンで削りきる驚異的なコンボを可能とします。
コンボの組み合わせは様々にアイデアが存在し、現在主流な組み合わせは《マリゴス / Malygos》のスペルダメージバーストと、《ブラン・ブロンズビアード / Brann Bronzebeard》+《クトゥーン / C'Thun》の二通りとなっています。
参照デッキリスト
Feno's Red Mana Wyrm Miracle Rogue [TOP DECKS]
Decklist spotlight: Rufeng’s Pirate Rogue - #1 Legend on Asia [GosuGamers]
Kun Malygos Druid Gadgetzan [Icy Veins]
Senfglas' Aviana, Kun, C'Thun Druid [TOP DECKS]
Closing. グライミー・グーンズの明日はどっちだ
仁義なきガジェッツァンのカードセットは環境を一変させメタゲームを塗り替えました。その結果がやっぱりAggro Shamanだよね、という結論にいまのところ落ち着いているのが釈然としないところであります。海外プレイヤー達の間では、新たな構築に挑戦せずAggro Shamanをプレイすることを、ダークサイドに落ちるなどと表現する人すら見かけます。ともあれまだ新環境は始まったばかりですし、プレイヤー達が起こすイノベーションに期待しましょう。
さて今回の記事ではグライミー・グーンズ(Grimy Goons)の勢力に所属するカードについてほとんど触れていません。Handbuff HunterやHundbuff Paladin、Hundbuff Taunt Warriorなど新しい構築は登場したものの、新環境開けて数日の間に消えていきメタゲームにいささかの爪痕も残していないから致し方ありません。
その主な要因はハンドbuffというメカニズムが貧弱だという話ではなく、今の流行デッキの中では強みを活かせないだけであると願っています。アグレッシブなデッキの津波が過ぎ去った頃に、ふたたびそのポテンシャルを試す瞬間がきっと訪れるでしょう。
参照デッキリスト
Deck Guide: Hand-buff Beast Hunter [Good Gaming]
Firebat’s Aggro Murloc Paladin [TOP DECKS]
StrifeCro’s Hand Buff Midrange Paladin [TOP DECKS]
Kolento's Taunt Buff Warrior [TOP DECKS]
Fibonacci's N'zoth Warrior [Twitter]