「魔女狩り」あるいは炎上案件


IHEARTHUに掲載されたArtosisの提言より



オンラインゲームで炎上するような問題が起きるのはとくに珍しくもありませんが、実際目の当たりにするとやはり苦いものであり、これについて記事を書くのはなんとも気乗りしないものです。
後になってから気がかりな情報がポロポロとこぼれるように出てきたこと、そしてまず自分自身が起きたことについて心平らかに客観的に観察しているかという疑問もありちょっと間が空いてしまいました。

先月のDreamHack Summerを観ていた方はご存知、チャットメッセージを介したチート疑惑の件。


仔細は後ほどArtosisの文章内にて解説されていきますが、パッと見たところでは疑いの目を向けられるのは致し方ないというシチュエーションです。
そのプレイヤーの黒を確定するだけの決め手はありませんが、かといって嫌疑を拭い去ることもできないのでどこまで突き詰めてもグレーとしかなりません。


ご承知の通りオンラインゲームのプレイヤー達はチートに対してそれはそれは厳しい態度で臨むものです。疑わしきはデストロイみたいな向きもあります。とりわけFPS界隈の断固たる対応はよく知られています。

Counter Strike Cheater Computer Destroyed



ちなみにDreamHackで使用された機材は主催側の用意したApple社のiPadタブレット。
iPadでこれをやったら別の勢力が参戦してDreamHackを舞台とした宗教戦争へと発展しかねず、それはそれで面白そうですがそこまでの事態には至りませんでした。



不正の可能性というしこりが居座り続け、くだんのプレイヤー”RDU”はチーターのレッテルを貼られ炎上し、誰にとっても後味の悪さを残したままDreamHack Summerトーナメントは閉幕しました。

基本的に、事例を問わず炎上案件というのは見ざる言わざる聞かざるが一番安全で面倒もないものだと思います。
下手に触れてセルフバーニングで燃え尽きた方々は数知れず、その姿はあたかもインターネットという広大な天体にひととき瞬く流れ星のよう。ネットウォッチと天体観測は似通った風情があるものです。

とはいえそのゲームと、これに係るコミュニティに愛着を持ってしまったらそうもいかないものでしょうか。当事者の一人であるAmaz、大会のコメンテーターを担当したArtosisとChanManらはリスクをしょい込んだ発言をしています。


黒に近いグレー、推定有罪の見解が一般の認識として広まりいまだ晴れない中で、なぜArtosisらはリスクを負ってまでRDUを擁護するのかを今回は考えていきたいと思います。
彼らの見据えるヴィジョンに迫り、『魔女狩り』が始まることを未然に防ぐ手立てを想定し、ひいては今後日本のHearthstoneシーンにひとつの教訓として活かしていけるところを自分なりに考えてみたいというのがこの記事の目的。


e-sportsがエンターテイメントであるために。
これが大きなテーマとなりますが、まずはArtosisがスウェーデンからの帰りの飛行機で書き上げた記事をご紹介していきます。



Artosis (Dan Stemkoski)
アメリカ合衆国ニューハンプシャー州出身
14歳の年にBlizzard Entertainment社の看板タイトルStarcraftと出会って以降、その半生を共に歩み続けてきた。
相棒のNick "Tasteless" Plottと共に韓国のGlobal StarCraft II Leagueでキャスターを務め、Starcraftコミュニティに留まらずe-sportsの世界で高い知名度を持つ。
Hearthstoneにはクローズドβから参加、2013年11月のBlizzCon会場で行われたオフィシャルトーナメント「Innkeeper's Invitational」でOctavian Morosan (Kripparian)を破り優勝、Grandmaster of the Hearthの栄誉を勝ち取る。
プロプレイヤー、そしてコメンテーターとしてHearthstoneシーンにおいてもすでに欠かせない存在となっている。
➥ Artosis - Wikipedia
➥ Artosis - Liquipedia Starcraft BroodWar
➥ Artosis - Liquipedia Starcraft Ⅱ
➥ Artosis - Liquipedia Hearhtstone


RDU
ルーマニア出身、17歳のHearthstoneプレイヤー
4月に開催されたDreamHack Open: Bucharestで3-4th、そして今回のDreamHack Summerで優勝を掴む。
6月23日に欧州のプロゲーミングチームMeet Your Makers(MYM)に正式加入
➥ [MYM] Rdu joins MYM Hearthstone!





RDU, DreamHack, and Witch Hunts


周知の通り、DreamHackのイベントが嘆かわしい出来事により損なわれてしまった。
[訳注: Viagame Hearthstone Championship]
RDUはイベントを通じた中でいくつかのゲーム内メッセージを送信されていた。中でも注目すべきはファイナルの試合でのものだ。
私はRDUの擁護を固く表明している。その理由を述べる前に、何が起きたのかを確認しておくべきだろう。

そのメッセージの後には何が起きても、すべてが無条件に台無しにされてしまう。
メッセージの後に起きたこととは、DreamHackの運営管理者達が問題を審査しゲームの続行を決め、そしてRDUの勝利を認めたということだ。
それでは私達が目にしたものを振り返っていこう。

(私が見聞きしたものは他すべての人々と同じだということに留意して欲しい。解説を進行している間は配信されている映像を視聴していた)


➤ RDUは“Hi mom”のようなメッセージを複数回送られていた [訳注:ゲーム内チャット]
➤ 別の言語(おそらくルーマニア語)のチャットメッセージを送られ、そこには英語名“Hunter's Mark”が含まれていた
➤ RDUはゲームに勝利したが、彼は確実に把握してはいなかった [訳注:Amazの手札を]




VIAGAME : GRAND FINAL


ひとつの考慮しておくべきこととして、彼はゲーム終了後に気が動転した様子で管理者を呼び寄せた。何が起きたのかを知らせたのだと思うし、そうであって欲しい。
このことが管理者たちが下した決定の要因に含まれていたのかもしれない。
こういう状況だと想像してみよう。
私がイベントの管理者だったと仮定して、不正の幇助を試みる者についてただちに私に伝え、狼狽をあらわにしていたならば、チャットメッセージについて何も言わなかった場合よりも少し違った考えを持つことになるだろう。
言うまでもなく、どちらにせよ良くないことではあるが。できたら彼が管理者に何を伝えたのかを正確に知りたいと思う。


ゲームに勝利したRDUが確実に知っている筈がなかったことについて


私たちが見届けた通りRDUはAmazに勝利したが、しかし彼は自身の置かれていた状況を把握してはいなかった。
Amazが手札にFlareがあると知っていたとするなら、間違いなくRDUは自身に対してAlexstraszaを使い、そして1ターン後か2ターン後に敗北していただろう。
Flareに対して勝算が無かったからであり[訳注:Secret Spellが無効化される]、結果的に彼はAmazに対してAlexstraszaを用いるという(正しい)リスクを選択した。
これは実に理にかなうプレイの筋道のひとつだった。
私は世界最高のHearthstoneプレイヤーではないが、目の当たりにしたプレイングについて思考を巡らせた。
他のプロプレイヤー達にも話を持ちかけ、彼らも皆このプレイの筋について合意を示した。
もし意見の異なるプロプレイヤーが居るなら、このタイミングでAlexstraszaを自身に対して使用するプレイが合理的であったかを聞いてみたい。

[訳注:そもそもファイナルの試合中にAmazの手札には一度もFlareが来てはいないので上記のFlareのくだりについてはちぐはぐとなるが、RDUが勝利に至る筋道はAmazに対してAlexstraszaのアビリティ(バトルクライ:対象ヒーローのヘルスを15に変更)を使用する他無かった点については合致している]



mai are un arc si un hunter mark(彼は弓とhunter markを持っている)

VIAGAME : GRAND FINAL



Hunter's Mark”のメッセージについて


これについてはただ単に、一目瞭然過ぎるという理由からチート行為の証明には最も薄弱な点であるだろう。
ライブストリーミングのまっ只中に英語で正確にカード名を告げるメッセージなどあまりにも馬鹿馬鹿しい。明白な不正行為であり、誰であろうと絶対に言い逃れのしようもあるわけがない。
こんなマヌケな話はダーウィン賞を彷彿とさせる。誰も聞いたことがないような愚行で命を落とす人々にまつわる、あのとんでもストーリーのことだ。
まったくもって馬鹿げている。

訳注:
http://ja.wikipedia.org/wiki/ダーウィン賞 [Wikipedia]
進化論者であるチャールズ・ダーウィンにちなんで名づけられた皮肉の名誉賞。
愚かな行為により死亡する、もしくは生殖能力を無くすことによって自らの劣った遺伝子を抹消し、人類の進化に貢献した人に贈られる賞である。


手榴弾でジャグリング(クロアチア、2001)
火薬庫にタバコを捨てる(フィリピン、1999)
パラシュートを着用せずスカイダイビング(アメリカ、1987)

つまるところ、ダーウィン賞モノの馬鹿げた自殺行為としか見えないチャットメッセージは、チート行為の企てを証明する材料足り得ないというArtosisの主張。





先出の2点をおいて、あるプレイヤーのキャリアを断ち切ることはできない


繰り返すが私はイベントの管理者ではないし、どのような判定のもとに行われた決定だったものかを知りもしない。
私は自分の意見を表明し、今後の成り行きを見定めるために待つことにする。
その時点で私の頭の中では、起きていた問題はただ2点だった。(後になってそれだけではないことが判明したが、話はもうすぐ辿り着く)
決勝の試合とインタビューが終わり、一連のイベントが閉幕した後、RDUは私とAdmirable、ChanManに話かけてきた。
彼はこの上もなく動揺し、私の見立てではいまにも泣き出しそうな様子だった。
あの時何が起きていたのかに頭をかき乱され、間違いなく気が動転していたのだろう。
我々は17歳の少年の気を落ち着かせることに努め、ネットを見ないように、そのトラブルが起きた瞬間のことへ言及したものに目を通さないようにと言い聞かせた。


会場を離れTwitter、reddit、その他を確認したところ、事態は私の想像以上に悪化していることを目の当たりにした。
世間はRDUのチート行為を断定し、完膚なきまで彼の功績を台無しにしてしまったのだ。
その時私の周囲にHearthstoneのトッププレイヤーのほとんとが居たので、正直に彼らの思うところを尋ねてみた。
私が問をぶつけた人々が同意したのは先に言及したAlexstraszaの使い方であり、これは唯一の正しいプレイングだった。
あるプレイヤーはトーナメント中に”Hunter's Mark”のメッセージを送った人物としばらく前(カスタムゲームにターン時間制限が導入されるより前)に対戦し、その人物は対戦相手が怒り出すまで数分間もターンを終了させないような潔くないプレイヤーだったことについても言及した。
[訳注: Hunter's Markのメッセージを送った人物については後述]

これらを調べ終えた後、私が見たものは・・・




VIAGAME : GRAND FINAL


RDUは“hi mom”というようなメッセージを何度か送られていた


この件について幾つものゲームにおいてうっすらと気が付いていた。
私は数え切れないほどのイベントをキャストしており、無数の時間を私自身のストリーミング配信を行ってきた。
親しみのメッセージ、つまり“hi mom”のようなものはよく見られるもので実際のところもっと多くのこうしたものに薄々気が付いていた。
どんなに強調して足りないほど、よく見かけるものなのだ。
ただこれをもってRDUが不正を行った証明とするのは一瞥して馬鹿げている。

こんな下らない話があったのは、私がreddit/Hearthstone上にRDUへのヘイトを食い止めるためポストした時のことだ。
私と同意見のプロ達に尋ね、時に思ったことをズケズケ言う私に感化されたのではない彼らの率直な見解と彼らがどのように話したかを記した。
[訳注:Artosisのreddit投稿はDreamHackのスタッフによって削除された]


redditへの投稿が同意と嫌悪の入り混じったものとなってしまったことを後悔していない。
そうすることは私のキャリアとイメージにおいて愚かなことだろうが、私はむしろこの件に踏み込み、人々がRDUを火炙りにするに任せるのではなく彼への重圧を取り除きたい。
私はまだRDUに対するすべての告発から彼が潔白だと信じているが、この状況において考慮すべき幾つかの事実が明るみに出てきている。



RDUは他の対戦においても“hi mom”のようなメッセージを送られていた


人々はいま多くの対戦において、RDUはゲーム中のキーポイントにメッセージを送られていたという主張を試みている。
これは明らかに調査されるべきだろう。
さもなければ他の誰かのゲームにおいてLeeroy Jenkinsを引いた時にメッセージがポップアップしたというそれだけで、チートが起きたと結論を下すことになってしまう。
記録された全てのゲームの全ての瞬間をしらみつぶしに調査すべきだろう。

またある者は判定が時間的な制約から行われたと主張した。
[訳注: 再試合を行わずにRDUの勝利を認めるという運営側の下した判定]

イベントは時間通りに実行するのは難しい。
時間や公平性など、演出上の適切なバランスを見つけることはより困難だ。
もしこれが明白な事実であったとしたら(私は大いに疑問視するだろうが)、大きな問題となる。
[訳注:前段の判定が時間的な制約でくだされたということを指して]



何が起きているのかをAMAZに伝える者が居なかった


これは全てにおいて飛び抜けて悪い部分だった。
発生していたトラブルを調査している間、この状況についてAmazに一言も伝えられて無かったことに大いに驚き不信を持っている。

Amazは私がこれまで出会った中でもっとも公明正大で気のいい人間の一人だ。
再試合やアドバンテージを得るために、細かいことをこじつけて利用するようなタイプの男ではあり得ないと考えている。
対戦の続行が決まった時、私は(誰もがそう思うに違いないように)Amazが状況の説明を受けていたと考えていた。
プレイヤー達には情報を与えなければならない。
私見では、彼らは主張する権利を持ち場合によっては判定に異議を申し立てる必要がある。
Amazはそもそもその機会すら与えられていなかったのだ。(それでも彼はそうはしなかっただろうと推測している)



この状況をどう修正すべきだろうか?


RDUのプレイしたゲームすべての記録映像がリリースされ、検分すべきだとというのが私の見解であり、これは慎重さと責任をもって行われるべきだ。
他のプレイヤー達のゲームも同様にチェックされなければならない。そこにはいくつもの“hi mom”的なものがあることに賭けてもいい。実際のデータを収集したあかつきには状況を判断できるだろう。

調査に加えて、熱烈なRDU嫌いの人々は手を止めなければならない。
この記事を読んだ後でもRDUがチートを行ったとまだ考えているなら確固とした主張があるのだろう。しかしながらRDUに対する際限ない攻撃と中傷はできない。
あなたがもしこれに当てはまる人であるなら、以下のことを考慮して欲しい。

あなたの根強い印象にもかかわらず、仮にRDUが無実だったとしたら?
学校へ通い、明けても暮れても夢中なHearthstoneを練習しているわずか17歳の子供だ。
彼はまさに到達した。そして今、彼の人生でもっともハッピーであるべき日において、インターネットに台無しにされてしまっている。
彼がうまくやったことと達成したこと全ては証拠もなしに帳消しにされ、集団心理の攻撃にさらされる結果となった。証拠が無いだけではなく言われていることは中傷だ。
どうかあなたのことをよく知りもしない人々によって語られる、真実ではないものに目を通さないで欲しい。それは忌まわしいものだ。
これまでの経験と31歳の大人として言うが、そうしたものはかなりこたえる。
私はeSportsと共に過ごした12年の間にずいぶんと面の皮が厚くなった。
だがRDUはまだ17歳なのだ。




将来に向けてこれを防ぐ方法


明らかに多くのことが間違っていた。
率直に言うと、日々ますますHearthstoneのコンテンツが生み出されている今いずれこうした物事に行き当たる時が来るだろう。
DreamHackのような注目度の高い重要なイベントで起きてしまったことは不運に尽きるが、しかし少なくとも我々はこの件から学び、再びトラブルが起こらないように手段を講じることはできる。

まずイベントはトーナメントアカウントでプレイされるべきだった。
Blizzardは9,999,999ダストを所持するアカウントを用意しており、私自身以前使用したことがある。今回そのアカウントが使用されなかった理由については知らないが、将来的にはこれを利用するようにすべきだろう。

しかしながら、トーナメントによってはその専用アカウントが問題にもなりえる。
アカウントを切り替えデッキを作成するため準備の時間が多く必要とされ、プレイヤーネームも正確ではない。全てのカードがアンロックされるため、プレイヤーがアドバンテージを持つという議論さえもある。

たしかにフレンドリストから全ての人をリムーブするという方法もあり得る。勿論これは迷惑なことこの上ないだろう。
競技的な対戦をサポートする機能をBlizzardがパッチで実装してくれるといいのだが。



[訳注:最終試合の最中にRDUは管理者の指示に従いフレンドリストから全て削除した]

VIAGAME : GRAND FINAL


特定の状況において再試合か没収試合かそのまま勝ちを認めるかをルール上できちんと規定しておくべきだ。

トーナメントセッティングに何か問題が起きているような場合は、どちらのプレイヤーにも何が起きているのかを知らされるべきである。
繰り返すが、Amazに通知されなかったという事実は全てにおいて最大の失敗だったといえるかもしれない。



管理者について注記
トーナメントの管理者であることは私が思いつく中で最も割に合わない仕事の一つだ。
多くの場合、彼らはボランティアかほとんど報酬を支払われていない。
彼らの役目は文字通り、なにかとんでもないトラブルが起きた時対処することだ。
これが手に負えないような問題である時。例えば今回のような状況では正しい答えは無い。
間違いは明らかに起きるべくして起きた。


疑わしきは罰せず
共に情報を集め全体から物事を把握しよう。
怒りにまかせてがなりたてる言葉よりも、理性的な議論に耳を傾けよう。





[補足事項: 1]
Hunter's Markのメッセージを送ったプレイヤーPufuleteのredditポスト
r/hearthstone/comments/28ba3e/this_is_pufulete [reddit]
i.imgur.com/0we1jF0.png [imgur]

彼はRDUと同じくルーマニア在住の17歳の少年であり、前大会のDreamHack Bucharestに出場していました。彼のredditポストによると

・ 試合が行われているiPad上にメッセージが表示されるか興味があった
・ 冗談のつもりでAmazの手札の内容をチャットした

という2点によるものだったと告白しています。また不可解な点として、メッセージは3分のディレイ後に表示されたと言及していますが、実際のストリーミングはディレイ無しのリアルタイムだった、筈です。

Pufuleteはすでにredditポストと自身の同じ釈明を載せたフェイスブックを削除済み。彼の謝罪内容にどこまで事実が含まれているかは不明です。


[補足事項: 2]
DreamHack Summer Hearthstoneトーナメントのイベント協賛と試合の独占配信を行ったViagameについても補足。国際的メディア企業Modern Times Group(MTG)のデジタル促進部門、MTGxがDreamHack開幕直前に設立のプレスリリースを発表した新興のグローバルストリーミングサービスです。

Hearthstoneのイベントにおいてどこまで関与していたのかはイベントオーガナイザーの名簿でも入手しない限り想像の範囲を出ません。DreamHack運営からは一言も今回の騒動への言及が無いことを加味すると、イベントのストリーミングに留まらない責任まで負担していたのかもしれません。
イベント運営側の対応として発表があったのは下記2点




件のメッセージ、”Hunter's Mark”のチャット行為がゲームの展開に何ら影響が無いことを理由に、対戦をそのまま続行するという決定が下されました。
DreamHack Summerの閉幕後、ViagameとDreamHack双方からの事件への調査結果について報告はなく、そもそも詳細な検分が行われていないのかもしれません。

Viagameという新規事業の華々しい立ち上げに相応しい舞台となったDreamHack Summer Hearthstone Championshipのイベントにおいて、あってはならないトラブルだったのは言うまでも無いでしょう。邪推するようではありますが、彼らはRDUに対する徹底した調査の必要性に目を瞑ったようにも思えます。
これはつまり、RDUが本当にチーターであったならばDreamHackという国際的な大舞台の決勝戦で不正を行う愚か者への処罰を見過ごしたのであり、彼がチーターではなかったならば、RDUの名誉を回復する機会を捨て去ったということです。



e-sportsの視点


2013年の3月中旬、PAX EAST前後で発表されたHearthstoneは同年8月16日にクローズドβを開始、一年足らずの短い時のなかで莫大な数のファンを獲得し、競技的なゲームとして受け入れられました。
DreamHack、IEM(Intel Extreme Masters)、WECG(World e-sports Championship Games)、グローバルなe-sportsイベントが次々とHearthstoneを競技タイトルとして採用しており、この産業のなかで順調に地位を築きつつあるように窺えます。

そんな中でもHearthstoneがe-sports足り得るかという疑問の声はあります。
マウスやキーボード等の入力デバイスを駆使したマイクロ操作の練度、精度を競う要素が皆無であること、そしてカード資産がリアルマネーによって差を付けられるというシステム(これは段階的なものですが)であることがそうした主張の中心にあります。これについてはまったくもって、もっともな話だと思います。

ただわたし個人の見る中では、あるゲームタイトルがe-sports競技タイトルであるかどうかを判別する基準、どこで線が引かれるかについてコンセンサスが得られているようには思いません。
”e-sports”という枠組みの定義そのものが曖昧模糊としたもので、その条件は見る人の視点によりけりとなるでしょう。ただ単に、競技的なゲームとして多くのファンに親しまれている、それで十分かとも思います。


しかしHearthstoneはここにきて、急速な普及スピードと競技的な対戦環境の整備が釣り合っていない点について目に余るようになりました。

・対戦のリプレイ機能が無い
・対戦の観戦機能が無い

主たる上記2点に加えて、チャットシステムがDreamHackで起きたトラブルの要因となりました。Artosisの言葉通り、こうした問題が重要なイベントで起きてしまったことは不幸に尽きますが、起こるべくして起こったトラブルでもあります。



符丁



VIAGAME : GRAND FINAL

Hearthstoneのゲーム内チャットメッセージは、送られた相手がゲームの対戦中であろうがお構いなしに表示されます。
このため、今回の一件のように外部の協力者が対戦相手の手札内容を伝えるという不正行為を容易に為すことがます。

ただし、観戦機能が無いため現在Hearthstoneのイベントにおいては選手のプレイ画面をキャプチャーしストリーミング放送を行っています。それゆえ不正を企むチャットメッセージが表示されれば、受け取り手のみならず世界中の目に触れることとなります。
その上でカード名を正確に告げるイカサマというのはまさにダーウィン賞ものの自殺行為ですし、Leeroy Jenkinsが手札に入った瞬間“Hi mom”のようなメッセージを繰り返されればすぐに怪しまれるでしょう。

仮にわたしがHearthstoneのチャットを利用して不正を試みると想定したならば、対戦中のプレイヤーに対して届けられる”全く違和感の無い”メッセージの中に忍ばせるでしょう。
たとえばGL HF(Good Luck, Have Fun)。この汎用性に富む定型句なんか適当ですね。
「GL」だけでも「Have Fun」だけでも大文字でも小文字でもスペースの使用もとくに決まり事の無いよく見かけるこの言葉。この中に幾つのメッセージが込められるでしょうか?

たとえば対戦相手Warlockの手札にLeeroy JenkinsFaceless Manipulatorのコンボ材料が揃っているのかどうか。LとFのイニシャル、たった2文字のアルファベットが伝わるだけでもゲームの展開を変えるには十分なのです。


私が以前プレイしていたゲーム(心は現役)、同じくBlizzard Entertainment社のゲームタイトルStarcraft2ではゲームの仕様としてこれを防止することが可能でした。プライバシー設定の項目、「対戦中はBusyステータスにセットする」にチェックを入れることでゲーム中にチャットメッセージは表示されません。
(付け加えると、「Mature Language Filter」という設定項目により18禁ワード、下品な表現、差別表現の言葉を伏せ字に変換する機能もありました)

同じ会社が作ったゲームなんだから、という言い方はぞんざいかもしれません。
しかし前作Starcraft (Brood War)から10年以上に渡り、e-sports競技の代表タイトルとして支持され続けている同じ会社のゲームから学ぶべき点は数多くあるはずです。



通し


とはいえ本気で不正を試みるつもりであるならば、発見される危険を最小限に抑えることをまず考えるでしょう。世界中の目がある中でチャットを使ってイカサマを行うのは余りにもリスクが高いと思います。
Hunter's Markのようにカード名を正確に告げるのは論外として、自分と協力者にしか意味を取れない”符丁”を用いるにしても、可能な限り人目に触れない方法が望ましいはず。相手の手札にLeeroy Jenkinsが入る度に、配信されている画面上に“Hi mom”のメッセージが何度もポップアップするというのは賢いやり方とは考えにくいもの。

オフライントーナメントの会場内に協力者を置けるのであれば、発見されるリスクを最小限に抑えたイカサマ、いわゆる”通し”と言われるものが可能です。
これについてはポーカーや麻雀など古来より賭け事、勝負事につきもののお話。ギャンブルの歴史の裏にはイカサマの歴史が滔々と流れ続けているでしょう。


観戦席に協力者を違和感なく紛れ込ませるだけでいい

VIAGAME : GRAND FINAL


カードゲームの世界でどうなのかは全く知識がありませんが、ちょっとググっただけで山ほどヒットするということはよくある話なのかもしれません。
当然のことながらトーナメントの主催者達は不正の防止には周到な対応を行うものだと思います。DreamHack Summerではどうだったのでしょうか?私は運営の姿勢に大いに疑問を抱いています。



イヤフォンのコードはどこへ?


Hearthstone界隈における著名人の中で、ただ一人RDUの不正を糾弾した人物がいます。
それはTeam Tempo StormのReynadです。

DreamHackのイベントから帰還したReynadは自身のストリーミングを再開するや否や、RDUがチーターだったに違いないと発言し大きな波紋を呼びました。彼の主張とその顛末については大きく脱線しすぎるので後ほど項をわけて補足します。
だたその中でひとつ、看過できない情報が彼の口から語られました。

Tempo Storm Reynad - Recovering From Dreamhack & Amsterdam!

➥ http://www.twitch.tv/reynad27/b/540849524?t=26m00s
動画時間26分より


Reynadの証言によると、プレイヤー達が身に付けていたノイズキャンセリングイヤフォンのコードが繋がっていた先はなんと、個人が所有する携帯電話だったのです。




VIAGAME : GRAND FINAL


e-sportsのLANイベントにおいてプレイヤー達はイヤフォンからゲーム内サウンドを聞き、さらにかぶせるように遮音性の高い密閉型ヘッドセットを装着するというのはよく見られる光景です。
実況解説を行うキャスターの発言はゲームの内容に言及しているため、プレイヤーがそこから情報を得ることがないようにするための措置ですね。Starcraftでは念を入れて、プレイヤーたちは各自それぞれ試合中にアクリル板で仕切られた専用ブースに放り込まれます。情報が極めて重要なゲームであり、万が一にもキャスターの発言が聞こえるような事態を避けるためです。

驚いたことに、DreamHackのHearthstoneトーナメントにおいては、ヘッドセットの下に付けるイヤフォンがプレイヤー達の個人所有セルフォンに繋がり、そこで音楽を再生してキャスターの声が聞こえないようにするという、きわめて危険な方法を採られていたようです。
Reynadの発言通り音楽をミュートして漏れ聞こえてくるキャスターの言葉を聴きとるのは勿論、通話も可能な状態だったということです。何をか言わんや。



魔女狩りから身を守るため


DreamHackの一件においては、ユーモアと親しみにあふれる"The Handsome Nerd"Artosisが珍しく怒りをあらわとしました。
わたし個人もやり切れない憤りを覚えましたが、それはつまるところ起きるべくして起きたトラブルの噴出した場所に、わずか17歳の少年が立たされていたことに対するものです。

RDUが本当に無実であるかはわたしには判断が付きません。Hunter's Markと”Hi,mom”はイカサマにしても稚拙過ぎる手段なので、分別の無い子供の悪ふざけだったと見るのが妥当だろうと思う程度です。これはわたし個人の所感であり、RDUの無実を証明する一片の材料にもなりません。そして人を見る目に自信などないので、RDUの振る舞いからは彼がイノセントに見えるかどうかの印象も言い難いものです。
わたしの感じた怒りはRDUが無実であるか、それとも本当にチーターであるかよりも手前の地点で起きたものです。

オンライントーナメントは配信ディレイをかけることでゴースティングのような相手の手札をリアルタイムに知る不正行為を防止できます。
しかしオフラインのトーナメントでは演出上で大きな違和感を視聴者に与えるため、ディレイをかけるわけにもいかないでしょう。
チャットシステムを改善するかトーナメントに適した専用の対戦モードを用意するか大会用のアカウントを使用するか。何れかの手段を講じる必要が有ります。

それは不正を防止するだけではなく、プレイヤー達を守るためにも欠かせないはずです。
(DreamHack閉幕から一週間後のNumericable M-House Cupでは、Blizzardからトーナメント用アカウントが貸与されました)


仮に、ファイナルの試合上でAmazとフレンドになっていたプレイヤーが悪戯心を起こし、手札の内容を伝えるようなチャットをしていたらどうなっていたでしょうか?
Twitch配信で1万人以上の固定ファンを抱える彼の人徳からすれば大きな問題とはならなかったかもしれません。しかし、それでも彼は試合後に釈明に追われたことでしょう。
自身にまったく非が無いにも関わらず、不正はしていなかったと訴えなくてはならないのです。Amazの大勢のファン達は彼を信じ擁護することでしょう。しかし彼をよく知らない人々、または事情をよく知らない人々は平然と、彼がチート行為を行ったと指弾する可能性が大いにあります。彼のプロゲーマーとしての経歴に傷が付くかは判りませんが、しかしDreamHackの一件はHearthstone関連に留まらず数多くのメディアに掲載されました。そこにチート疑惑のプレイヤーとしてAmazの名前が挙げられていたらと思うと寒気がします。

さらに、運営のDreamHackとViagameはイベント閉幕後もRDUに対する精細な調査結果を発表していません。調査をそもそも行っていないのでしょうか。これはつまり、一人のプレイヤーに掛けられた嫌疑など気にも留めていない姿勢のあらわれに見えます。RDUがチーターだったならば彼を追放するために調査を行うべきですし、彼が無実であったなら名誉の回復のために調査を行うべきです。

繰り返しとなりますが、不正の防止を講じることは取りも直さずプレイヤー達を守るために絶対に必要なものです。
(もちろんイベントの規模に伴いその責任の重さは変わるものでしょうが)

同時にプレイヤー達はルールと大会規約を熟読し、これに忠実に従う必要があります。
参加者の一員としてイベントを成功へと導くのみならず、自分自身を守るために必要な行動です。
あなたが大会に参加し、正々堂々と一片の落ち度もなくプレイをしていたことを担保するものは、ルールを遵守していたかどうかしか無いからです。RDUにはひとつ明確な落ち度がありました。トラブルが起きた時点でゲームの中断を運営管理者に申請すべきだったのです。17歳の若者に、大舞台の上で冷静にその判断をせよというのは酷だとは思いますが。


そして何よりも、不正を防止することはイベント演出の一環に含まれるものです。
エンターテイメント性の成熟を欠いては今後、e-sportsが本当にひとつの産業として成長を続けていくことは難しいでしょう。




補足:Hearthstone Drama ft. RDU and Reynad


Reynadの主張を要約すると、SEMI FINAL第2ゲームにおいてRDUがイヤフォンの繋がった電話の音楽をミュートしキャスター達の発言内容を聞き取り、それによってマリガンの手札にFan of Knivesを残した、というものです。
これはすぐに彼の勘違いであることが判明しました。

➥ [Viagame] SEMIFINAL #1 REYNAD VS RDU
動画時間7:45前後、Reynadのマリガンが終わる前に、キャスターの3人がReynadの手札について述べるよりも前にRDUはマリガンを行っています。



VIAGAME : SEMI FINAL


この配信にはredditも大いに沸き、事態の収集を図るためTempo Stormのコーチ兼マネージャーに就任したDan "Frodan" Chou (ESGNのメインキャスターを務めていた)まで出張る騒ぎとなりました。
Frodanとの間に話し合いをもったReynadは自らの思い違いを直ちに謝罪しましたが、そこで終わらないのが彼らしいところ。

なんとRDUに対してDreamHackのトロフィーを賭けたBO7を申し込んだのです。残念ながら対戦は実現しませんでしたが、このHearthstone Dramaには大きな反響がありました。
➥ [reddit] Reynad says on stream that RDU '100% cheated' at Dreamhack. Thoughts?

ある人はReynadの過去を指摘しました。ある人はReynadがヒールを演じていると面白がっていました。Tempo Stormの宣伝のために物議を醸すような行動をするのでは?と見る人も居ます。実際Reynadの一挙手一投足は注目を集め続けています。

今回のテーマと全くそれるので最後に補足として持ってきましたが、個人的にはプレイヤー同士のこういうドラマは嫌いではありません。




名前

Alternate hero Beginner Guides Blackrock Mountain Curse of Naxxramas Decks & Guides Diary Events Expansion Goblins vs Gnomes Journey to Un’Goro Knights of the Frozen Throne League of Explorers Mean Streets of Gadgetzan Metagame Mobile News & Notice One Night in Karazhan Patch Notes Season end reminder Solo Adventures Tavern Brawl The Grand Tournament Utilities Weekly Recap Whispers of the Old Gods World Championship Year of the Kraken Year of the Mammoth
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Hearthstone dojo: 「魔女狩り」あるいは炎上案件
「魔女狩り」あるいは炎上案件
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Hearthstone dojo
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